「映画は好きですか」

よく行く喫茶店の店員が、耳を赤くしながら話しかけてきた時のことを、私はこの先も忘れることができないだろう。
野次を飛ばしながら見守るバイト仲間を追い払い、気まずそうに目を伏せて私の返事を待つその人は、紺のエプロンからしわくちゃになった2枚のチケットを取り出した。


そして2枚を見比べて、幾分か綺麗な方を私に差し出す。
その様子が可笑しくて、私はくすくすと笑いながら、思わず差し出されたチケットを手に取ってしまったのだった。