定期の王子様

「怖かった、よ」

「うん」

あいつは困った顔してあたまを掻きながら、ハンカチを渡してくれた。

両親が警察に駆けつけてくれて、事情を聞かれた。
終わってバスの営業所にお礼に行ったが、あいつは乗務中とかでいなかった。

「もうすぐ戻ってきますので、少々お待ちください」

通された応接室、少し待っていると騒がしい足音がしてあいつが入ってきた。

「今日はありがとうございました」

「いえ、わざわざすみません」

年上相手だからか、丁寧口調で爽やかな笑顔を浮かべてるあいつは、……どこか胡散臭い。

「お嬢さんも災難でしたね」

「ええ、まったく」

両親と営業所長さんが話し込み始めたし、あいつは次の乗務の準備があるから行くって言うから一緒に応接室を出た。

「これ。
ハンカチのお礼」

そっと袖を引いて差し出すと、あいつが意外そうな顔をした。

「……気に入ってもらえたらいいんだけど」

借りたハンカチの代わりに、買った新しいハンカチ。
時間がなかったからじっくりは選べなかったけど。
それなり、だと思う。

「サンキュ」

にかっと笑うあいつに、ドキッと心臓が跳ねた。