目の前で突然バスジャック事件が起こったことに、フィオナは一瞬体を固まらせる。しかし、すぐに状況を冷静に分析し始めた。

偶然にも、フィオナとシオンはバスの運転席に近い席に座っている。そう、犯人と近い。取り押さえようと思えば、いつでも走って行ける距離だ。

犯人は銃を持っているものの、動きなどからテロリストなどではなく、素人による犯行だとフィオナはすぐに見抜く。これならば犯人を油断させ、隙をつくことが可能だ。

「あの……」

フィオナが口を開くと、隣に座っていたシオンに素早く腕を掴まれ、制止される。フィオナが「何故ですか?」と目だけで訊ねると、シオンはフィオナの耳元にゆっくりと口を近付ける。

「ここにいるのは私たちだけじゃない。もし、犯人が発砲すれば怪我人が出る恐れがある。ここは大人しくしていよう。いずれ、捜査一課が何かしらの手を打つはずだ」

確かに、下手に刺激を加えれば怪我人が出る恐れもある。フィオナの頭に浮かんだのは、何の罪もない花嫁や参列者が殺害された事件だ。あの血の海を思い出し、体に寒気が走る。