白衣と弁当

声をかけるといままで私の存在に気づいてなかったのか、弾かれたように椅子から立ち上がった。
というか、うまか棒をそんなに集中して真剣に見る必要があるんだろうか。
おそるおそる振り返ったその人――神長さんは目が合うと、がしっと両手で私の手を掴んできた。

「ちょうどいいところに」

「はいっ?」

ずずいっと神長さんの顔が迫ってきて、思わず背中を仰け反らせてしまう。

「最近、うまか棒がおいしくないんだけど。
どうしてだと思う?」

「……は?」

……そんなこと知るか。

突然変なことを言い出した神長さんに呆れたけれど、ぐいっと顔を近づけ、私を見つめる、眼鏡の奥の瞳は真剣そのもの。

「君が泣きながら帰った日から、うまか棒がおいしくない。
原因は君にあるんだと思うんだ」

「あの。
……とりあえず、手、離してもらえないですかね」

「あ、……ごめん」

初めて自分が私の手を掴んでいることに気づいたのか、ぱっと手を離した神長さんは真っ赤になっていた。