白衣と弁当

だんだん足は遅くなっていき、立ち止まると涙がぽろぽろこぼれ落ちてくる。
すれ違う人がぎょっとした顔をしていたが、涙は止まらなかった。



それからお弁当を作らなくなった。
父は残念そうだが、もう作る理由がない。
神長さんと顔を合わせるのもつらいから、父にお弁当を届ける役目も拒否し続けた。

でも、とうとう母にこれからも父にお弁当を届けないのならお小遣いカットだと言われ、嫌々、また研究室の前に立つ。

「……はぁーっ」

やだなー、お弁当ここに置いて帰っちゃダメかな。
そんな考えすらあたまを掠めていく。

「失礼しまーす」

開けたドア、一番奥の机にいるはずの父はいない。
いや、父よ。
お弁当届けに来る度、高確率でいないのはどうなっているんだ?

いれば父に直接渡せるのに、いないとなると誰かに預けなきゃいけないわけで。
そうなると、だいたいひとりしかいないわけで。

手前の机に座るその人に視線を向けると、なぜかうまか棒を手にじっと見つめていた。
はぁっ、小さくため息をつくと机の上に散らばったうまか棒の中に戻す。

「あのー」

「は、はい!」