私としては大変不本意なのだが、母は喜んでいる。
これで手間が一つ減ったと。

なぜなら、父はよくお弁当を忘れる。
だからこれ幸いと大学入学と同時に、父の忘れたお弁当の配達を母に任命された。

……ほんと、大迷惑。



「あの……」

「はい?」

次に研究室に行ったときも、例の男が駄菓子を囓りながら私を振り返った。

「父……大朝は?」

「あー、教授いま、出てるんですよね」

父よ、人がわざわざお弁当届けてあげてるのになぜいない?

男はまたパソコンに向き直ると、駄菓子をバリバリ囓りながらキーを打ってる。
机の上には同じ駄菓子――うまか棒がいくつも転がっていた。

もしかして、この人のお昼なんだろうか?
いや、いくらなんでもないだろう。

「ん?」

私の視線に気づいたのか、男が手を止めて私を見上げると、口の端にはうまか棒のくずがついていた。

「食べる?」

手近にあったうまか棒を掴むと、私に差し出してくる。
じっと見てしまってたせいで、欲しいと思われたのだろうか。

「……あ、ありがとうございます」

微妙な気分で一応笑顔を作って受け取ると、男は満足そうにちょっと笑ってパソコンにまた向き直った。