白衣と弁当

「なんでだろう?
味でいえば昨日食べた弁当の方が完璧なんだけど。
でも、僕はこっちがおいしい」

また、神長さんはしきりに首をひねっている。

「君にお願いがあるのだけど。
どうも僕はもう、うまか棒では満足できないらしい。
申し訳ないが、これからもずっと僕に弁当を作ってくれないかな」

ぐいっと迫ってきた顔。
私の手を掴む、神長さんの両手。
眼鏡の奥、妙に真剣な瞳。

きっと、神長さんは本当の理由に気づいてない。
研究バカなんだから仕方ないといえば仕方ないかもしれないが。

変な人だと思う。
そんな人を好きになった私も。

だから。

「いいですよ」

私の方から顔を近づけ、ちゅっと唇をふれさせて離れる。
目を開けるとリンゴみたいに真っ赤になった神長さんが見えた。

「き、君は……!」

「ダメでしたか?」

少しだけ首を傾げていたずらっぽく笑ってみたら、すーっと視線が逸れた。

「……考慮しとく」

右手で恥ずかしそうに口元を覆った神長さんは、あたまからしゅーしゅーと湯気を出して黙ってしまった。



今日も私は神長さん――真之介さんにお弁当を作る。

きっと明日も明後日も。
ずっと。

だって、
「一生弁当を作ってほしい」
ってお願いされたから。

「いってきます」