幼なじみの優穂は内気だった。
普段から人前でおどおどしていて、簡単に人に騙されるようなお人好し。
更に嫌でもそれを我慢するような性格で、救いようがなかった。
故に幼なじみの俺がそばにいないと何も出来なかった。
いつでもあいつを見守って、手助けをしてやらないといけないんだ。
それを優穂も分かっていた。

と思っていたのは俺だけだった。

「私、自分で成し遂げたいことができたの!」

なんだよその顔。

「だから、無理して私のそばにいないで...?」

無理ってなんだよ。

「安心して、私が、私になっただけなんだから。」

待てよ!行くな、お願いだからっ。
あぁ、あぁあぁ!!どうしてなんだ。
いつも俺はお前の一歩前にいて、ずっと歩んでいたはずだったのに。
これからも、この先もずっとだったのに!
どうしてお前は...いつの間にお前は!

俺の届かない所へ行ってしまったんだ...!

「優穂っ...!」

お願いなんだ、行かないでくれっ...
俺の知らないお前なんていなくていいんだ!
なんでなんだ...俺のそばから、居なくならないでくれ...っ!
俺がいないとダメなんだろ?またすぐ帰ってくるだろ?
やっぱり、君が必要だったって言ってくれるだろ?!
なぁ、なあ!

「優穂!!!!」

閉塞感を感じた恐怖で叫んだ。
閉塞感は嘘ではなかった。
なぜなら叫んだ先に何も無かったからだ。
自分の残響だけが聞こえた。
身体から汗が吹き出した。
これが冷や汗なのか、なんなのか知らない。
涙ですらあったかもしれない。
何もかもが知らない感覚だ。
ぐるぐると上も下も右も横も分からない。
優穂を無くした逆行が、俺を襲った。
荒波となったそれに、抗うすべもなくなった時、俺は悟った。

お前がいないといけなかったのは俺だ。
勝手に「そばにいてやる」なんてほざいていた癖して、いなくなって焦りを感じるのは何者でもなくこの俺なのだ。
くだらない言葉でも吐いていないと、このプライドという名の剥き出しになったガラスの心が、粉々になってしまう。

海の底へゆっくりと沈みながら、目を閉じた。