暗い。真っ暗。暗闇。黒色。
夜から連想されるものはだいたいがこれだと思う。
私はそう思う。
暗くて、何も見えなくて、不安で。
私にとっての夜はそんな存在だ。
人間の心理として、夜は気が落ちやすいと聞いた。
誰が言っていたかは忘れたけれど。
それでもありがたい。これだけで納得の材料になってくれる。
外は暗い。当たり前だ、日付が回る頃なのだから。
この辺りの住宅街はみんな眠りについていて、明かりは少ない。
あ、眼の前のアパートにひとつ光が灯った。だからといって何もないが。
ふと、上を見上げた。
ベランダから見える空は、なんだか広く思えた。
なぜこんな時間にベランダにいるかといえば、眠れなかったから。それだけ。
少し縁に寄りかかって身を乗り上げる。
月が見えた。
そっと手を伸ばす。届くはずもない。
当たり前だが、手を伸ばしたかった。

届かない、か。またあの人を思い出してしまうんだな。
考えても、どこにも行き場のない夢想ばかり。

多分。いや、きっと、、?もしかすると?
言葉が定まらない、この際何でも良いな。
私は、好きだったんだ。
好きと言ってももう、それは伝える手段は全くない。
私たちは卒業したあと、その後の学校も居場所も知らないんだ。
誰の?と聞かれると、少し悩んでしまう。
そんなに、彼を知らなかった。
覚えていないだけだと思うんだ、何もないのに好きなんて、彼が聞いたら笑われてしまう。
もちろん、0ではない。
運動が得意だとか、私より一つ年下だとか、意外と繊細だとか。
、、やっぱり、恋するには少なすぎるだろうか?
どうしてなんだろうか。少なくとも、3年はいた。
話を咲かせて、笑い合って。

「会いたいな、、」

勝手に溢れ出した言葉は、無様にも震えていた。
会えばわかる、この“すき“という塊が。
私が持つ“すき“は、あとから気づいたんだ。
最初は、何気なく夢で彼を見たことから。
懐かしいな、なんて微笑ましかった。
肝心なのはその次だ、気がつけば2度、3度。
不思議に思った。友達だと思っていた存在が夢で私に微笑みかけてきている。
夢はほとんどが理想や想像の幻影であって。
私の思いが作っているんだろうか、と意識を生み出した。
好きだから見るのか、見たから好きなのか。
卵が先か、鳥が先か?
そんな論争に似ていた。
だから、会えばわかると思ったのだ。
“すき“という塊の正体に。
何年会っていないかはもうわからない。
きっと誰もが聞いても今更だと思うだろう。私もそう考える。
彼は今、どうしているだろうか?
もしかしたら、彼女がいるかもしれない。
知らない居場所で幸せに暮らしているかもしれない。
、、幸せじゃないかもしれない。
私には何もしてあげられない、無力だな、、。
気持ちだけでは何もできない。

ニャオーンッ
野良猫、か。
グダグダと思考と巡らせるところだった、危ない。
気分が沈んでいる。寝る気分になれないな。
寝たくない。このまま寝ると、また彼が素知らぬ顔で現れるだろう。
それに、寝て起きたら彼のいない生活が進む。
こうして、思い出になっていくんだろうな。

「っくしゅん!」

長居しすぎた。身体が冷えているようだ、部屋に戻ろう。
夜が暗いのは当たり前で、何も見えない、感じない。それは人にとって恐怖だ。
未知なものより怖いものはない。
それでも私は夜を歩く。
無くしてしまう前に、このきれいな思い出を続けていく。
きっと今日のように月を見上げれば、君を思い出せるだろうから。
夜は怖いだけじゃない。
いつか、何事にもやってくる夜明けのためにある。
そう信じて。いつまでも待とう。
たとえ、そのとき彼が隣にいなくとも。

「っ、、」

少し強がってしまった。
今はまだ痛い。
本当は隣にいたい。君の目に映る私を見ていたい。

ベッドに横になり、目を閉じた。
瞼の裏には、まだ君がいる。
太陽のような明るく優しい笑顔をしていた。
いつか、君がいなくても十分になってみせる。
ただ、今だけはもう少し夢を見させてね。
あと何回、会えるかな。
ふっと微笑むと、追ってきた眠気に身を任せた。


また君の前に現れるなら
まるで夜明けが来るといなくなる月、、みたいな___

そんな存在がいいな。