夏休みは1日中踊ってると言ってた。

今日は午前中から出掛けてみようと、
早起きして家を出た。

朝から猛暑だけど、
夏って感じでワクワクする。

「おはよ」

そう声をかけられ振り返ると、
真っ黒に日焼けしたチカが立っていた。

「うわっ日焼けしたね!さすがテニス女子」

本当に夏少女って感じ

ちょっと引き締まったかも。

「ナナミ、久しぶりだね。どこに行くの?」

そう聞かれてちょっと口籠った。

ダンスの事はちょっと恥ずかしくて言えない。

「うんと、散歩」

適当に答えるとチカはケラケラと笑った。

「おばあちゃんか!
ねぇ、暇ならたまには部活、応援に来てよ!
明日、来て!昼に終わるからさ。
一緒にご飯食べて帰ろうよ」

久々のチカとのランチにワクワクした。

「うん、明日、行く。やった!楽しみ」

チカと約束してそのまんまモールへ向かった。

「ちーびー」

タツキが声をかけてくれた。

「また来たのか」

みゆきさんは相変わらず感じ悪い。

たぶん、私が来るのを歓迎してない。

でもそれでも足が向く。

「すみません。また見させて下さい」

そう言ってストレッチしているみんなを眺める。

「ねぇナナミ、一緒に踊らない?」

アヤノに誘ってもらったけど、
やっぱり断った。

「なんで嫌なの?
あんなに上手かったじゃん。踊ろうよ!」

そう言って何度も誘ってくれた。
タツキも

「ちびのダンス、俺、すごい好きだったし、
感動してたんだよ。チビなのに大きく見えてさ。」

そう何度も褒めてくれた。

「ごめん」

心苦しいけど、私はもうダンスはしない。

ダンスは辞めたんだ。

「じゃあ何しに来てんの?」

私の言葉にみゆきさんが聞き返した。

「ねぇダンス辞めたなら、
ここに来る意味ないよね。
毎日邪魔なんだけど」

明らかに敵意と悪意むき出しにして言われた。

何も言えずに黙り込んだ。

確かにみゆきさんの言う通りだ。

何しに来てるのかな、私。

アヤノもタツキも必死に、
私とみゆきさんの間に入り、
空気を変えようとしてくれた。

「ごめんなさい。」

それだけ言って帰ろうと立ち上がった。

本当、私、何してるのかな。

毎日毎日ここに来て、ただダンスを見て。

でもすごく楽しかった。

ここに来るのが楽しくてワクワクした。

ものすごく惹かれた。

でも、本当は本当は。

「あんたさ、本当に昔は踊れたの?
どーせ、子どもの習い事程度でしょ。
だから辞めたんだよね。
私は小学生からずっとダンスが好きで、
辛い練習も乗り越えたし、逃げなかった。
あんたは練習が嫌で逃げたんでしょ。
そんな奴が毎日見に来て、
完全にタツキ目当てとしか思えない!
こっちは真剣にやってんだよ」

私だって真剣だったよ。

練習もストレッチも楽しかったし、
ダンスに活かせるならと、
器械体操やトランポリン、
バレエにピアノもやった。

辛いなんて思った事なかったよ。

全部楽しかったから。

「じゃあなんで辞めたの?」

なんで、辞めたか。

それは。

恥ずかしくなったからだ。

ツバサくんに恋をして恥ずかしくなった。

イベントで目撃されるのも恥ずかしいし、
衣装も恥ずかしい。

柔軟な体の動きやセクシーな振り付け。
アイドルスマイル、ぶりぶりな振り付け。
足を大きく開く振りもある。

全て恥ずかしい。

それは今も変わらない。

だけど、本音はもっとダンスしたかった。

でもその本音を無理に押し込めるくらい、
ツバサくんに見られる事を怖れた。

自分に嘘をついてる罪悪感から、
ダンスは辞めたと納得した。

「恥ずかしいって何なの?
じゃああんたは私達見ててずっと、
こいつら恥ずかしいって思ってたの?」

それはない。

「好きだから、来てたんじゃないの?
タツキの追っかけじゃないなら、
やっぱりダンスがしたくて、
嘘つけなくて来ちゃってたんじゃないの?
だったら何も考えずに踊ればいいじゃん。
今、認めないと、
もう一生ダンスできるチャンスないよ。
私、自分自身を大切にしない人、
1番ムカツク」

みゆきさん。

ダンスできるチャンスか。

今がそのラストチャンスって事?

自分自信を大切に、か。

はぁー。

そうかもしれない。

心から好きでこんなに気持ちが揺り動かされ

勝手に足が向く程に惹かれてるのに。

まだ自分に素直になれない。

踊りたい。でも恥ずかしい。

ふと勇磨の言葉を思い出した。

―どんなナナも嫌いにならない―

そっか、そうだよね。

恥ずかしい事なんてない。

好きな事を好きにやっても、
誰にカッコつける必要もない。

そう気が付いたら不思議と楽になった。

今までなんでカッコつけてたんだろ。

チカだって勇磨だって、みんな好きな事をしてるじゃん。