「さぁ行くかー。」

そう言って歩き出す勇磨。

振り返ってニヤニヤ笑う。

「何、笑ってんの!」

怒る私に

「ナナ、アロハセンターのおばちゃんみたい。
それ、いつまでさげてんだよ」

あー、キャンティネックレス!

慌てて外してカバンに入れる。

「うそ、ごめん。妬いただけ」

そう言って照れる勇磨。
直球の愛情表現にドキドキする。

「それ、好きなんだな」

あーこのキャンディか。

うん、子どもの頃から、なんか好きなんだよね。

目を伏せる勇磨

「そっか、さすがツバサだな。
ナナの事、よく分かってる。
俺、そんなの思いつきもしないよ」

うん。そうだね。

ツバサくんらしいよ。

「ま、いっか。ナナが戻ってきたんだし。
もう望みはないと思ってたからさ。
ね、本当にツバサと会わなくて良かったの?」

立ち止まって私と目線を合わせる勇磨。

前髪の間から真剣な瞳がのぞく。

「このパインアメね、
1番好きって訳じゃ本当はないの。
好きではあったから1つ、
ツバサくんにあげた事があって。
それ以来、1番好きでしょってくれるから、
1番って訳ではないって言えなくなってた。
さっき、北高まで行って色々と気が付いた。
私、結局、
ツバサくんには笑っていて欲しいんだ。
私の1番好きな物を知って欲しいんじゃなくて、
笑っていて欲しい。
勇磨は好きにしていいって、
奪っていいみたいに言ってくれたけど、
ツバサくんが笑ってくれるなら、
相手は私じゃなくてもいいのかもしれない。
私が笑わせてあげたかったけど、
でもそうじゃなくてもいいかなって思えた。
それよりも私が私の為に、
笑顔になれるように過ごそうと思った」

勇磨の瞳がキラキラしてる。

「その為に俺のとこに戻ったの?」

ドキドキする。

「う、うん、まぁ」

そっと私の手を取ってぎゅっと握る

「手、繋いでいい?」

繋いだ手を解いて後ろに隠す。

「ダメ」

ちょっと拗ねる勇磨

「なんでだよ、
この流れは手を繋ぐ感じじゃん!」

そっちこそ、なんでだよ!

ダメです。

「じゃあ、ハグしていい?」

バカっ!

「あ。じゃあ、キスしていい?」

バカなんだな。

勇磨が好き。

でも、それは友達としてなんだと思う。

勇磨といると心地いい。

ずっと一緒にいたい。

でも、恋愛なのかはまだわからない。

まだ、怖い。

私の言葉を真剣に聞いてくれた。

「そうだな、最近、俺も飛ばしすぎたな。
1回好きだって言えちゃうと止まらなくて。
でもナナの気持ちが付いてこないのも、
気付いてたし、困らせてるのも知ってた。
ごめんな、ナナ。
なるべく俺も抑えるようにする。
待つって言ったしな。
でも、今日はさ、
俺と観覧車に乗りたいんだよね?」

甘く優しい瞳。キラキラ光る茶色い前髪。

あれ、やっぱり勇磨ってイケメンなんだ。

そんな瞳をされたら...。

いやいや負けちゃだめ!

「うん、夕陽また見たい!だけど!
この前みたいに揺らしたら、絶交だからね。」

勇磨は意地悪な顔になる

「じゃあ俺が立ち上がったりしないように、
ナナは俺を捕まえとかないといけないな。」

意味が分からないでいる私に

「だ、か、ら」

「また俺の心臓の音を聞きながら、
夕陽を見な!って事で」

抱き合うジェスチャーをする。

思い出して顔が赤くなった!

そ、そ、そ、それはダメだって。

「ふーん、いいんだぁ。
じゃあ俺に触るなよ。」

なんだよ、バカ!

私から触るなんて事、ある?

「ナナ、俺が何で観覧車って言ったか分かる?
もちろん、夕陽を一緒に見たいけどさ、
それだけじゃないんだよなぁ」

ニヤニヤ笑う。

もう、いいよ。

分かったよ。

「ここで見る」

勇磨の胸を指差した。

「はじめから言う事聞けよ」

う、ん

頷く私に

「てっぺんでのチューは?」

頷きそうになって焦った。

バカっ!

私の16回目の誕生日は、勇磨と観覧車で、
夕陽を見るという思い出が出来た。

勇磨の心臓は前よりも早くて体温も熱く、
でもそれ以上に、
自分の鼓動も嫌なくらい響いて、
夕陽に集中できなかった。

でも、この景色は宝物だ。

大丈夫、
本当にここから新しい一歩を踏み出せる、

そう思った。