目の前で運ばれてきた、
パンケーキを頬張るツバサくん。

こんな事をもう3年もやってきてる。

初めは可愛い弟みたいな感じだったのにな。

今じゃドキドキして見てる。

「うん?なぁなは食べないの?」

口にクリーム付けてる。
紙ナプキンで口の横を拭いてあげた。

「付いてた?ごめんごめん」

そう言って笑う。

かわいいなぁ。

「ねぇ、病気の隣の人、優しくしてあげないとね」

一瞬気がつかなったけど、あ、アイツね。

中2病の陰気野郎。

優しく?

「なんで?そんな必要ないじゃん」

ちょっと声が強くなって自分でもハッとする

そんな私にツバサくんも気が付いて笑う。

「怒らないの。なぁな、その人、病気でしょ。
人に心を開けない病気なんだから。
なぁなは優しいからさ、きっと仲良くなれるよ」

いやぁ、無理でしょ。

受け取り側のアンテナが崩壊してるもんな、あれ。

でも、とりあえず私もにっこり笑って同意した。
ツバサくんは満足そうに笑ってまた食べる。

癒されるなぁ。

あの陰気野郎の事も忘れられる。

「ツバサくん、また背が伸びたね。」

そう言う私にピースサインして喜ぶ。

「うん、身体測定でまた伸びてた。
それに体もデカくなってきて
シャツの肩と腕がキツくなって
親に文句言われた」

ケラケラ笑う。

「そっか、もう買い替えじゃ嫌がられるね」

たくましくなったな。

「後で公園でさ、
また、なぁなを持ち上げさせてよ。
俺がどんだけ強くなったか見たいでしょ」

その言葉を聞いて思い出した。

中2の夏、体も背も多くなったツバサくんと、
私の家の近くの公園で会った時だ。

近くの遊具で懸垂してたツバサくんが、
ふと私を見て

「なぁな、50キロくらいかな」

そう言いだして、
おもむろに私をお姫様抱っこした。

突然で驚いたけど、
なんか安定感があって怖くなかった。

「うん、ちょうどいいな。」

そう言って私を重石にし、スクワットする。

「50キロもないよ」

怒る私を笑う。

「じゃあ、もうちょっと体重増やしてよ。
これじゃあ、そのうち重石にならなくなる」

私の存在価値って。

その時はあきれもしたけど、
ツバサくんに抱っこされて重石になって、
ドキドキしてる自分にも気が付いた。

なんだ。これ。

一度意識すると、どんどん大きくなり、
ハッキリと恋だって、
初めてでも分かった。

弟みたいに思うその気持ちは、
基本的には変わらないけど、
たくましくなった肩や胸にドキドキするし
立場もすっかり、逆転した。

ツバサくんは私の変化には気が付かず、
私を友達だと思ってる。

男女の友情なんてないと言う友達から、
ひやかされても、
「俺となぁなは別だ」って言い切る。

だから私も友達を貫いた。

告白できたら、もしかしたら違った関係になれるのかもしれない。

だけど、今以上のいい関係なんてない気もする。

勇気がないと言うならそうなのかもしれない。

でも、今のこの関係が私にはしっくりくるから。

帰り道、公園に寄りまた少し話した。

「なぁなの隣の席の人さ、みんなにも冷たいの?」

そう聞かれてちょっと考えた。

「どうなのかな。友達はいると思うけど、
なんかそう言われてみれば女子と話してるのは、
見た事ないかもしれないな。」

なんだ、女子苦手くんか?

しょぼいなぁ。

「まぁでも、
なぁなから初めて新しい友達の話が聞けたからさ、ちょっと嬉しい」

え?友達?

全く、ツバサくんって。

「じゃあまたね、なぁな。
明日、その子に優しくしてあげるんだよ」

そう言って帰って行った。

えー、やだよ!

女子苦手な中2病の陰気野郎なんか。