バカ勇磨!

不思議と涙が出てきた。
もう止まらなかった。
ツバサくんとの思い出が、
次から次へと溢れてまた涙も溢れた。

あんなに泣いたのに。

スッキリしたはずなのに。

不思議。

涙が枯れるまで泣いた。
心が満たされていくのを感じた。

代わりに勇磨のシャツがびしょ濡れになった。

「ナナ、泣きすぎー。俺が風邪引くわ」

Tシャツをパタパタしてふざける。

もう何回こうやって勇磨の胸で泣いたか。

私、もうずっと、こうして欲しかった。

勇磨に助けて欲しかった。

「ごめんね、工藤くん」

そう言う私にデコピンする。

「痛っ何すんの⁈」

私の目を覗き込んで、
ちょっと拗ねた顔をして言った。

「ゆーま」

そう呼べって事?

かわいい。

思わずきゅんとしちゃった事を、
隠すようにふざけた。

え?何?何だって?

そう、からかう私にくすぐり反撃してきた。

きゃーやめてー

必死に抵抗して、
はずみで勇磨の顔が近づいた。

2人の間に緊張が走る。

「ナナ、俺」

そう言って私を見つめる。

私の両手首を掴む手が熱い。

「2度としないって約束して」

私の言葉に勇磨が固まる。

「私とファンクラブとの間に何かあっても、
勇磨のせいじゃない。
私の気持ちを勝手に想像して決めないで。
勝手に決めつけないで。
勝手に私から離れないで!
勇磨がいなくなるのは、嫌だ。」

瞬間、勇磨の顔が近付き唇が重なった。

驚く私をそのまま抱きしめる。

「好きだ。ずっとナナが好きだ。」

時が止まった。

え、え、ちょっと待って。

今、なんて?

勇磨が、私を好き?

私を?

私を好きになってくれる人っているんだ。

なんていうんだっけ?

捨てる神、拾う神?

違う、そうじゃない。

勇磨が私を?

「気づかなかったろ。
俺がいつもふざけてると、
思ってたんだろ、どーせ。
俺はいつも本気だったんだけどな」

今までの勇磨の言動がよぎる。

いつもふざけて、私をからかって、
好きとか全く感じなかった。
というか妹として扱われてるのかと思ってた。
国際派とか、言ってたし。

私を好き?

そんな素振り、分かんなかった。

「中3の妹を抱きしめる高校生はヤバイぞ。
そんな事したらミアンにボコられる。
国際派って、何だよ。
俺が誰でも構わず抱き寄せると思ってんの?
俺の胸で泣きなーとか変態だろ!
だいたい俺は女嫌いで通ってんだぜ。
ナナ以外とまともに話もしてないだよ。」

いや、そーなんだけど。

それは知ってるんだけど。

「もういいよ。
どうせナナはそんな反応しか、
しないと思ってたから。
俺の事、好きになったら告ってよ。
待ってるから。
俺はずっとナナが好きだから。
今日はキスだけで許してやる!」

そう言われて気が付いた!

私、初めてだった、キス。

勇磨のバカ!

睨む私に片眉を上げて笑う。

「ナナが悪いんだよ。
俺以外には触らせない約束したのに、
破ってツバサに」

そこで言葉を切る。

「あームカツク!
ツバサ、なんでナナを抱きしめたんだよ。」

1人でイライラする勇磨。

だからって初キスを奪っていい訳がない。

勇磨の神経、分かんない。

でも。

「約束破ってごめんね。
これからは守るように努力する。」

私のほっぺを両手でひっぱる。

「痛っやめてよ」

「バカナナ!
守るように努力するとか言うやつは、
守る気ないんだよ。
必ず守れ。いいな。
あと追加な。
俺以外の男を部屋に上げるな」

俺以外。
また中2病出てる。

「言っとくけど中2病じゃない。
俺はナナが好きなんだから、
言う権利がある」

え、そうなの?

だけど、勇磨だって約束破ったじゃん。

「どんな私も嫌いにならないって、
言ったのに勇磨だって約束破ったんだから、
おあいこだからね。」

それには不服だったらしい。

「いや、俺はナナを嫌いにはなってない。
だから怒ったんだ。
ナナはもっと周りをよく見ろ!」

あれ、前にも同じような事を言われたな。

「見てたら俺がナナをどれだけ」

そこでやめて口籠もる。

うん?

何?

ハッキリ言ってよ。

「もう一回チュウさせてくれたら言う」

バカなんだ。

変態勇磨!

キスって、
初キスって女の子にとっては一大事なのに。

でも不思議と嫌じゃない。

2回目はダメだけど。

さっき勇磨に言ったのは本当だ。

勇磨がいなくなるのは嫌。

勇磨との約束も守る。

勇磨が大好きだ。

その好きは友達としての好きだと思う。

だけど、初失恋の辛かった今日が、
少し変化した。

新しい何か始まるかもしれない。