ツバサくんは雨が降ると、
部活が休みになるらしく、
連日の雨で毎日メールが来た。

私の部屋で話したりカフェに行ったりした。

なんだっていい。

ツバサくんに会えるなら。

こうして2人で過ごす時間が続けばきっと、
ツバサくんも私の所に戻ってくる。

もう私の想いは止められない。

勇磨は大きな大会でずっと公欠だ。

ケンカした日以来、
会ってないから会うのが怖かった。

今は誰にも何も言われたくない。

雨の音が聞きたくて教室のベランダに出た。
今日も朝から大雨だ。

またツバサくんに会える。

嬉しい。

だけど同時に心が重い。

ずっしりと重い。

手を伸ばして雨を溜めてみる。
どんよりしてる空から雨の線が見える。

しばらく外を眺め教室に戻ろうして
ドアが開かない事に気がついた。

カギ、閉められたんだ。

教室の中には誰もいない。
そっか、今日は全校集会。

あーあ。2時間は締め出されるな。

どうせユーマーズの仕業だ。
今日は助けてくれる勇磨もいない。

あ、いても助けてくれないか。

今、超、怒ってるもんな。

ベランダに座り込んで膝を抱えた。
良かった、下が濡れてなくて。

ユーマーズめ、必ずやり返してやるから。

携帯を取り出して写真を見返してみた。
中学の時から順に。

ツバサくんがいつも笑ってた。
キラキラの笑顔だ。

なのに最近のツバサくんは、
こんなにキラキラ笑ってない。

私が笑わせてあげたい。

カスミちゃんの事なんて忘れて欲しい。
なんでもするから、どこへでも付き合うから。

だから笑って欲しい。

ガラッとドアが開いた。

何故か振り返らなくても、
勇磨だと分かった。

やっぱり勇磨だ。

こういう時、必ず助けてくれる。

学校、来てたんだ。

でも今日は何も話さない。

ただカギだけ開けて行っちゃった。

やっぱりまだ怒ってるんだな。

怒ってても助けては、くれる。
そんな事が嬉しいと思う自分に驚いた。

勇磨に会えなくてホッとしてたのに。

全校集会に参加してまた教室に戻った。
隣の勇磨は黙ったままだ。

「勇磨、ありがとう」

帰り際にそれだけ言った。
机にうつ伏せた勇磨は私を見ない。

なんですぐに怒るの?

なんで勇磨が怒るの?

私の事なのに。

何が気に入らないの?

もう、いいや。

帰ろう。

勇磨の前を通り過ぎる時に手を掴まれた。

「ナナ、またツバサに会うの?」

ドキンとした。

机にうつ伏せたまま、
でも手だけしっかりと握る。

「今日は会わない」

声が震えた。
顔を上げて私を見る。

「今日はって事は結構、会ってるんだな」

ドキドキする。

なんだろう。

やめて、何も言わないで!

「ツバサが欲しいの?」

直球だ。

答えられない。

「なんで答えられないの?欲しいなら、
好きだってツバサに、ちゃんと言えよ。
影でこそこそ会うんじゃなくて、
ちゃんと好きだって言え」

そんな事、言えてたら今、
こんなに苦しんでない。

言える訳がない。

これ以上、私を苦しめないで。

「なんでだよ、言えよ。好きなんだろ。
ツバサの悩みを聞くフリして、
別れろって思ってるだろ。
だったらぶつけてみろよ。
正々堂々とやれよ。それがナナだろ」

は?

何、それ。

正々堂々って。

悩みを聞くフリって。

全部、その通りだから余計に腹が立った。

私だってツライのに。

あんたが言うことなんて全部、分かってたよ!

ツバサくんに会えても、
嬉しい事を言われても、
いつも夜はツラくなってた。

ツラくてもどうしても、
ツバサくんが欲しいんだもん。

勇磨のせいだよ!

勇磨があれダメこれダメ言うから、
はじから破る私の中に
罪悪感が生まれて広がって痛い。

勇磨を正面から睨んだ。

「何も知らないくせに勝手な事、言わないで。
私、もうずっとツライ。勇磨のせいだよ。
勇磨が約束ばっかさせるから。
私、罪悪感しかない」

掴んだ手を引き寄せ両手を掴んだ。

「俺のせいなの?」

周りから悲鳴が上がる。

うるさっ。

「罪悪感、感じる事、してるんだ。」

周りを睨みながら勇磨に言った。

「勇磨には関係ない」

勇磨が私の手を離した。

「ふーん。よく分かった。
正々堂々とツバサに当たれないお前が、
ツバサの何の役に立つ?
どうせ別れさせようと騙してるんだろ。
そういう罪悪感だよな。
そんな奴だとは思わなかった。
ツバサが何でナナのとこに来るか分かるか。
不安だからだよ。
ナナといても足りなくて、
でも他に方法がないから、
何回も会いに来るんだ。
ツバサが本当に会いたいのは違う子だよ。
それなのにお前は必死でみっともないな」

走って教室を出た。

悔しい。

でもその通りだ。

だけど、なんで勇磨が怒るの?

約束を破ったからって、なんだよ!

そもそも、なんで勇磨が、
そんな約束をさせて私を縛るの?

必死でもいい。

みっともなくていい。

ツライよ。誰が助けて!

勇磨なんて嫌い。