部屋に入りドアを閉めた。

「なぁな、まだ怒ってるの?」

ううん、違うよ。

大丈夫。

「ごめん、ごめん。大丈夫だよ」

動揺を隠せずにいた。

「なぁな」

ツバサくんの手が肩に乗った。

ドキッとした。

勇磨に怒られるな、
そんな風に思って自分が嫌になる。

約束ばっか、させるからだ。

だから何しても罪悪感しかない。
今、こうして2人で部屋にいて、
最高に幸せなのに、ツライ。

カスミちゃんへの後ろめたさも、
もちろんある。

分かってる。

「こんな時、
どうやって女の子を慰めたらいいか、
分かんないや。
工藤に聞いておかないとな」

なんで、今、勇磨の事を言うかなぁ。

本当にツバサくんって。

ちょっと笑いが込み上げた。

「あ、なぁな、笑った。」

喜ぶツバサくんに、私も少し元気になった。

やっぱり私、ツバサくんが好きだ。

「なぁなはさ、工藤の事、嫌いなんだね。」

え。

昨日とは逆の質問。

また笑った。

「え、なんで?」

「うんと、ケンカするから。
なぁな、すごく怒るからさ。
俺には怒らないでしょ。
というか、
なぁなが怒るのってあんまりないよね」

そっか、そうだね。

でもね、ツバサくん。

私、本当はいつも怒ってた。

いつもいつも心の中で怒ってたんだよ。

勇磨といるようになって、
心の中から外に出ちゃったけど。

バカ、俺にも隠せよって笑われそうだね。

思い出しただけで、
泣き笑いみたいな顔になる。

どうしたんだ、私。

さっきも、わざと意地悪を言った。
わざと傷つけた。

「勇磨の事は…嫌いじゃないよ。
大好きだよ。
だけど時々、すごく腹が立って、
押さえられなくて、ケンカになるんだ。
ケンカするとすごく悲しくなってさ、
仲直りしたいけど、上手くできなくて。
いつも、勇磨が折れてくれた。
でも、今回は、無理かなぁ。」

言ってて泣きそうになる。

あんなに、傷つけたら、仲直りしてくれない。

だけど、私だって引けないんだもん。

ツバサくんは首をかしげる。

「じゃあ俺となぁなとは違うね。
俺はなぁなとケンカしたくないもん」

そうだね。

ツバサくんとはケンカにならないね。

「相性いいんだね」

そういう罪な事を言うところ、かわいい。

だけど、その言葉にまた私の中の悪意が、
広がって止められなくなった。

「カスミちゃんとは?ケンカになるんだよね」

聞いてみた。
ちょっとツラそうに頷く。

「うん。すぐ怒るんだよ。
俺が女の子と話してるだけで。
好きなのはカスミちゃんなのに、
別の子が好きなのか?
って聞くし、無視したりするしね。
どうしたらいいのかな」

好きなんだ、カスミちゃんの事。

でも、相性悪いよ。

好きなのも勘違いだよ。

別れなって。

「好きだったら相手の気持ち、理解しないとね。
一方的に怒ったり無視するのはよくないし、
本当に好きなのかなって思っちゃうよ。」

だから別れた方がいい。

ドクドク音を立てて体中を悪意が駆け巡る。

「メールも電話も無視されて」

だから別れなって。

「それはないね。本当に好きなら、
連絡するはずだよ。
しないって事は好きじゃないんだよ」

だから、別れろ!

「うん、そうだよね。
相手の気持ち、理解しないとね。
なぁなの言う通り、
自分から、何度も連絡してみるよ。」

え。

悪意の流れが止まる。
体が一気に冷える。

なんで、そうなるの?

どうしてそう思う?

ツバサくんってどういう耳をしてるの?

「やっぱ、なぁなだな。
本当に優しいね。なぁなといると安心する」

なんだろう。

ツバサくんって。

無垢なの?バカなの?

イライラする。

私がこうして今、
あなたを心の中でディスってる事、
気が付かないでしょ。

勇磨なら1発で気がつくのに。

勇磨にだったら言えるのに。

別れて欲しい。

また私の所に戻ってきて。

私が面倒見るから。

私の中でタガが外れる音がした。