ママからケーキとお茶を受け取り、
私の部屋に行った。

「部屋、汚くてごめん、適当に座って」

軽く片付けながら緊張を抑える。
ツバサくんは私の机の上や棚を見て回る。

全く、デリカシーないな。

まぁそういうところがかわいいんだけど。

「あ、これキレイだね。」

小瓶を手にして中の貝殻を揺らす。

うん、勇磨が見つけてくれたから、
大事にしてるんだよ。

「俺はアサリの方がいいなぁ」

思わず吹き出した。
ツバサくんって本当、かわいい。

「ツバサくん、ケーキ、
まだあるからたくさん食べてね」

そう言われる前から、
かなり口をふくらませている。

喉に詰まって苦しむから、
すかさずお茶を渡した。

全く、手がかかる。

かわいくて愛おしさが溢れ出た。

「なぁなはさ、工藤が好きなの?」

突然、聞かれてびっくりした。

「え、なんで?」

ケーキを口に運びながら言う。

「なんとなく。工藤といる時のなぁなは、
俺が知ってるなぁなと違うっていうか。
なんか頼ってる感じがしてさ。
ケンカもしてるけどさ」

そう、なのか。

分かんない。

「俺といる時のなぁなはさ、強くてさ、
しっかりしてるんだけど、
工藤といる時はさ、ちょっと弱い感じ。
工藤に守られてる感じでさ、俺、嫌なの」

え。

それは、どういう。

「嫌って、なんで?」

思い切って聞いてみた。

聞きたい。

なんで嫌なのか。

「分かんない。ただ嫌なんだよね。
それに工藤はさ、
俺がなぁなと自由に会ったり、
連絡したりするの禁止するし、
ちょっとでも、なぁなに触れようとすると、
怒るしね。
今までは、そんな事、
誰にも言われなかったのに」

ヤキモチ妬いてくれてるのかな。

そうなのかな。

嬉しい。

嬉しくて、あとひとおし、
したかったんだと思う。

「いいよ。ツバサくん。」

あっさりOKしてる自分に驚いたけど、
止められなくなってた。

「今まで通り、会おうよ。
いっぱい連絡して。
私もツバサくんと自由に遊びたいもん」

ツバサくんはガッツポーズをして喜ぶ。

「やったー。じゃあ、そうしよっ。」

ツバサくんは両手を広げて、
そのまま私にハグをした。

途端に勇磨との約束を思い出した。

一他の男に触らせるな。ハグしようとか言うな一

ツバサくんとのハグもダメだって言ってた。

なんで、今、思い出すの?

でも勇磨のハグとは違って、
本当に背中をトントンするだけなんだけど。

体もくっかないし。

思いっきり頭を振って追い出す!

よく考えたら、勇磨との約束なんて
守らなきゃいけない義理はない。

私は私の好きにさせてもらう。

そうだよ、
私とツバサくんは友達なんだもん。

「俺ね、本当はなぁなと話したかったんだ。
カスミちゃんの事は好きなんだけど、
上手く話せなくて。
緊張しちゃうし疲れちゃうんだよ。」

そ、う、なんだ。

その言葉に、ちょっと期待した。

気が合わないとか?

ドキドキする。

「そっか。疲れちゃうんじゃツライね。」

別れちゃえばいい。

ドキドキする。

「なぁなと連絡が取れないって相談したら、
機嫌が悪くなっちゃって。もう話せないし。
女の子って分かんないや」

私の中に悪意が広がるのが分かる

別れちゃえばいい。

「それはヒドイね。
ツバサくんの話、ちゃんと聞いて欲しいね。」

別れろ!

ドロドロしたものが広がって止められない。

ツバサくんはうつむいて呟いた。

「付き合うって難しいなぁ」

うん、そうだよ。

ツバサくんには無理だよ。

女の子の気持ちなんて分からないじゃん。

その天然で子どもっぽいところを、
理解できるのは、

私だけだよ。

私だけ。

気がつくと心の中で叫んでた。

戻っておいでよ、私のところに。
また守ってあげる。

「なぁな、明日も来ていい?」

ツバサくんの肩に手を置いて頷いた。

自分から触った。

途端に追い出したはずの、
勇磨の顔が浮かんだ。

かき消してもかき消しても
勇磨が浮かぶ。

ズキズキする。

なんだろう。

ツバサくんが帰った後、ドロドロした悪意と、
ツバサくんが戻ってくるかもしれない期待と、
少しの罪悪感が襲ってきた。

こんなの、良くない。

騙すみたいで良くない。

―でも―

あとちょっと押せば別れるかもしれない。

カスミちゃんじゃツバサくんを守れない。

ずっと思ってた、こうなるの、わかってたよ。

必ず戻ってくる。私の所に。

勇磨との約束も、
ツバサくんとカスミちゃんの気持ちも、
もう、どうでもいい!

止められない!

やっぱり、ツバサくんが好きだ!

結局、ツバサくんは、
絶対に私じゃないと理解できない。

そう、思う私が勝った。

悪魔のささやきに私は負けたんだ。