ツバサくんからメールが来ていた。

―なぁな、観覧車楽しかったね―

確かに思ったほど、辛くなかった。

勇磨のおかげだ。

だけど、
ツバサくんはカスミちゃんの彼氏なんだって、
ハッキリと思い知った。

私の知らないツバサくんをたくさん見た。

恋するとあんな顔になるんだなぁって。

だから、本当はもう、会いたくない。

2人を見たくない。

メールの返事はしなかった。

目をあげ机の上の棚の小瓶を見た。
ベッドから起き上がり手に取る。
小さな小瓶の中でピンクの貝殻が揺れた。

キレイだな。

ツバサくんに彼女ができたあの日、
勇磨が見つけてくれたんだ。

泣いてる私の為に。

「もっといいのが見つかって良かったな」って。

ツバサくん以上の誰かに会うことができるかな。

できないだろうなぁ。

でも中で揺れる貝殻が私を励ましてくれた。

ツバサくんからのメールを無視したまま、
2週間がたった。

梅雨に入り毎日ジメジメした季節に突入した。

「あぁ、雨、うぜぇー」

隣の席で勇磨が憂鬱そうに外を見る。

「そうかな、私は好きだけどね、雨」

私の言葉に意外そうな顔をする。

「雨が好きなんて珍しいな。」

そうかな。

雨って何もかも洗い流してくれる感じたし、
雨の匂い、好きなんだよね。

「ふーん。よく分かんねぇ」

分からなくて良し。

季節の移り変わりの趣きとか、
勇磨には分からないね。

「またディスってんな。バレバレなんだよ」

2人で笑う。

最近は毎日、
勇磨とくだらない話をして過ごしている。

楽しくてツバサくんの事もすっかり忘れてた。

だから帰り道、
ツバサくんがいつもの公園の前にいた時、
本当に驚いた。

「なぁな」

ツバサくん、どうしたんだろう。
なんか元気がない。

「なぁな、何でメールの返事くれないの?
何かあった?」

真剣な目で見られて固まった。

「俺、なぁなから返事ないからさ、
心配になって来ちゃったよ」

そんな風に言わないで。

せっかく忘れてたのに。

「ごめんね、ちょっと忙しくて」

そんな理由しか思いつかない。
ツバサくんはホッとしたように笑う。

「そっか、なら、良かった。
俺さ、
なぁなとこんなに話さない事なかったからさ。
ちょっと不安になっちゃったよ」

何で、そんな事、言うの。

彼女いるなら私の事は、
ほっといて欲しい。

だけど、そんな事は言えない。
結局、私はツバサくんを突き放せない。

「ごめんね、ツバサくん。
でももう大丈夫だよ。
いつでも連絡してね」

笑ってみせる。

いつものニコニコ笑顔のツバサくんになる。

かわいい。

この笑顔、もっと見たい。

「なぁな、ちょっと話したかったんだ」

そのまま、私の家に向かった。
家に入るとママがツバサくんを見て叫んだ。

「わーツバサくん!また大きくなったね。
うん、高校生に見えるよ!成長した!」

ペチペチ叩いたり触る。
ツバサくんも困って照れている。

もう、ママはツバサくんを何だと思ってるのか。

「えーナナミだって、
ツバサくんが大きくなったって、
それしか言わないじゃん。」

そうかな。

ツバサくんはもう何回もうちに来てる。

ママもたくさん食べるツバサくんが、
かわいいらしく、
しばらく来ないと寂しがる。

「ちょうど良かった。
今日ね、お料理教室でシフォンケーキ、
焼いたんだ」

途端に目を輝かせ喜ぶツバサくん。

かわいいなぁ。

ママも私も目を細める。

懐かしい、この感じ。

ホッとする。