え!何!

突然の衝撃に体が強ばる。

「ねー景色いいね。やっぱ歩くと揺れるな」

目の前で立ち上がり、
景色を見たり動き回る勇磨。

その度に前後に揺れる。

「おもしれー」

そう言いながら、わざと揺らす。

待って、勇、磨。

やめて!

窓枠につかまって全身に力を入れた。

「ナナは何回もツバサと乗るくらい、
好きなんだもんな、観覧車」

ツバサくん達の事で忘れてた高所恐怖症と、
観覧車の不安定な恐怖が一気に押し寄せる。

自分でも訳が分からない程の恐怖に、
強がりも飛んでいく。

「やめて!動かないで!」

そう叫んで立ってる勇磨を、
自分の隣に座らせた。

怖い!怖い!どーしょう、怖い!

まだ揺れてる。

というか、揺れなくても高い!

怖い。

ゆっくり殺される!

いっその事、高速で回して!

「お願い!動かないで!なんでもするから」

最後の方は声も震えてた。

手も力が入り固まり、
勇磨を掴んだ手が離せない。

ガクガク震えた。

怖い!どーしょう、本当に怖い!

揺れてる!怖い!落ち着け!

必死に自分を落ち着かせる。

突然、勇磨を掴んでいた手が、
ふわっと温かく包まれた。

顔を上げると勇磨が、
私の両手を包みこむように握ってた。

「ごめん。ふざけすぎた」

真剣で優しい目が私を見つめる。
そのまま私を引き寄せて抱きしめた。

「大丈夫。眼をつぶって深呼吸して。
落ち着くまで、こうしてるから」

嫌だ。怖い。揺れてる。

目をつぶるなんて怖すぎる。

感覚だけが研ぎ澄まされて、
高度が上がるのが分かる。

だけど見るのも怖い!

怖い。

勇磨の馬鹿。

落ちる。

怖い!怖い!

まだ怖い!

無理。助けて。

「落ち着いて、ナナ!俺の心臓の音聞いて」

勇磨の心臓の鼓動は少し早い。
でもトクトクと刻むその音を聞いてると、
少し落ち着いてきた。

「まだ手が冷たいな。
ごめん、こんなに怖がると思わなかったから
本当にごめん」

少し落ち着いてきた私は、
勇磨を見上げて言った。

「降りたらボコる」

勇磨はニヤッと笑って

「おっかねー」と空を仰いだ。

「ナナ、そのまま、ちょっと外、見てごらん」

そう言われて、ハイそうですかとはいかない。

怖いって言ってんじゃん!

半ばキレ気味に言う私に、
最後はゲラゲラ笑って勇磨は言った。

「なんだよ、さっきまでかわいかったのに。
いつものナナに戻っちゃったな、
いいから見てみろよ、
なんでもするんだろ!」

は?そんな事ばっか覚えてるようだけど、
こっちだって覚えてるんだから!
誰のせいでこんな目に!

そう反論する私に苦笑いをする。

そのまま私の体の向きを変えて、
外が見えるようにした。

勇磨から一瞬離されて不安になり、
身体が硬直した私を背中からまた抱きしめた。

腕を回して私の両手を握って温めてくれた。

不思議、安心して外に目を向けられた。

瞬間、窓の外に広がる真っ赤な世界を見た。

ちょうど夕陽が落ちるところを。

大きな太陽が真っ赤に輝いてキラキラ光ってる。

「すごいっ」

思わず体を起こしてゴンドラが揺れる。
慌てて勇磨の胸にしがみついた。

あー不覚!

「なんだよ、かわいーじゃん」

そう言ってふざける。

もうなんでもいいや。

とりあえず、降りたら勇磨にやり返そう。

今はここで、夕陽を見ていよう。

「きれいだね、こんなの初めて見たよ」

そう言ってからは黙って夕陽を見た。
その間、勇磨は私をずっと包んでくれていた。

あんなに怖かったのに。

さすが勇兄!

こういうところが、モテるのかな。

そう思ったけど、いや違うか!

そもそも誰のせいなのか、って話か。

でも後ろの2人の事、忘れられた。