「工藤くん、ちょっとお話いい?」
「やだ」
「お願い、本当に少しでいいの」
「は?なんで俺が少しの時間を
さかないといけないの?」
「それは、その...。すき、で」
「そこ、邪魔、入れない。」

朝、登校すると、それは教室の前で
繰り広げられていた。

はぁ、勇磨って。

もう何回もこんなの、見てきた。

きゃーきゃー騒ぐ子より、
勇磨に直接ぶつかってくる子の方が
私はいいと思うけど。

たくさんのギャラリーの中、
こっぴどくフラれるの覚悟で、きてるんだし。

「勇磨!ちゃんと話を聞いてあげなよ」

私の声に振り返り、あきらかに不機嫌になる。

「は?お前には関係ないだろ」

言葉もキツイ。

いや、確かに関係ないけどさ。
でも、女の子が勇気を出して告白してるのに、
そんなあしらい方はひどいって。

「うん、まぁ、そうだね。
そうなんだけどさぁ」

更に不機嫌になり、
そのまま教室に入って行った。

残された私は、
勇磨に告白してた彼女と
2人になった。

「あの、なんて言ったらいいか...。」

かける言葉も見つからず、
オロオロする私にひと言つぶやいた。

「余計なことして」

どこからともなく、
その子の仲間と見られる子達が出てきた。
携帯を片手に。

え?

何?

「あの?どういう意味?」

さっきまでしおらしくしていた彼女が
豹変した。

「あんた、本当にムカつく。
自分だけ特別みたいな態度で。
こっちはさ、告白動画だけ撮れたら
それで良かったのに。
イケメンチャレンジ分かる?
工藤くんで撮れたらバズったのに!
もう、台無し!」

イケメンチャレンジ?
イケメンが、何にチャレンジするの?

何、それ。

訳がわからずにいる私を置き去りにし
彼女達は去って行った。

私もそのまま、
隣のクラスのチカの元へ走った

「おはよ、ナナミ、もう終わったの?」

ニヤニヤ笑う。

「また、ナナミが工藤くんのファンの子と
やり合ってるって騒いでたよ。」

そう言いながら周囲を見渡す。

みんな視線をそらす。

ふーんだ。
全く、噂話ばっか。

そんな事より、聞きたいことがある!

「チカ、あのさ」


始業のチャイム前に席に戻った。

勇磨はまだ、不機嫌だ。

「あの、ごめんね、さっきは」

謝った。

「きゃーきゃー騒ぐ子より、
直接ぶつかってくる子の方が、
勇磨をちゃんと見てくれてるのかなって
思って。」

こっちを向かない。
前を向いたままだ。

「それで?」

声が重い。

なんで、そんなに怒るかなぁ。

勇磨をちゃんと見てくれる人がいるって
そう思ったのに。

「だって、勇磨の事を本当に好きだって、
知りたいって思ってくれる人がいるかもって、
思ったんだもん。そんな子がそばにいたら、
勇磨も嬉しいんじゃないかなって。」

「ふーん、あっそ。」

なんだ、その態度は。

「ねぇ、私、そんなに悪い事した?
友達の幸せを願っちゃいけないの?
勇磨にも好きな人ができるかもって、
そう、」

突然、体勢を変えて私の机に肘をかけ
グッと瞳を覗きこもうと顔を近づける。

近いっ

避けようと体を引くと、
両腕を掴まれた

周囲から悲鳴が上がる。

というか、私も悲鳴だ!

「それ、本気で言ってんの?」

え?

「本気で俺があの子と付き合えばいいと
思ってるの?」

真剣な目だ。

どういう意味?

本気って?

いつになく、真剣で少し怒ってるような
悲しいような潤んだ瞳に動揺した。