「あんた達、勇磨の事、
なんだと思ってるの!
勇磨は物じゃない!
勇磨はアイドルでもない!
ただの高校生だよ!
汗臭いし、ウザいし汚いし。
意地悪だしバカだし口悪いし、
トイレも行くしオナラもするの!
人間なの!」

ボールを投げる手は止めずに続けた。

「それでも勇磨が好きなら、
もっと勇磨をちゃんと見なよ!
勇磨はあんた達が思うほど、
王子様でもなくてアイドルでもない。
でも、すごく優しくていいヤツなんだよ」

私の攻撃が止まった途端に、
彼女達はまた臨戦態勢になり私を囲む。

「語ってんじゃねー」

南さんがそう言い終わらないうちに、
扉が音を立てて開いた。

一瞬のうちに静まり扉に注目する。

瞬間、彼女達が黄色い悲鳴をあげる。

「キャー工藤くーん」
「かっこいい」
「きゃあ」

あまりの人の変わりように、
あきれるやら笑えるやら清々しいしやら。

余計な事を言うなよ、
と私に睨みを効かせるのも忘れてない。

勇磨はゆっくり中に入りチラッと私を見て、
それから彼女達を見る。

「何してるの?」

そう言って彼女達を見渡す。
勇磨の視線に彼女達は目配せする。

「えっと。バレーの、練習です」

「ね、木下さん?」

すごい眼力で私を射抜く。

「あ、う、、うん、そう、バレー。
この子達根性悪くて、あ、違った根性なくてさー」

キッと睨む南さん。
勇磨がちょっとあきれ顔で私を見た。

「ふーん。こんな所で練習は危ないからやめな。
俺はてっきり、大勢で1人をボコってるかと思ったんだけど、違うなら良かった。もし」

そこで一旦言葉を止めて私の肩を抱き寄せる。

ユーマーズは息を飲んで目線をそらす。

固まる私。

「もし、俺の大事な友達を傷つけるような事があったら俺は、お前らを絶対に許さない」

そう言ってみんなを睨んだ。

勇磨の威嚇に彼女達は固まり、
でも頰を赤らめた。

「大丈夫です。木下さんとはお友達だから。
ね、木下さん?」

うーん。

「まーそうだね。
いつでもバレーの特訓するから」

そう言う私にまたキッとにらんで、
彼女達は出て行った。

去り際に

「怒ってる工藤くん、かっこいいー」
「あの目、最高!」

って騒ぎながら。

イかれてる。

というか、凡人の頭じゃ太刀打ちできない!

なんなの、あいつら!

でも、それよりも!

それよりも、だ!

「ね、ね、勇磨!
あれってさ、噂のファンクラブなの?」

はしゃぐ私のおでこの傷と肘の傷を確かめ、
ぎゅっと目を閉じる勇磨。

「ごめん」

一言、そうつぶやいて俯く。

その空気に堪えられなくなり、またふざけた。

「ねぇ、本当にファンクラブ、あったんだね、
すごいね、勇磨!」

瞬間、勇磨は強く、強く私を抱きしめた。

「悪いかよ、俺は、モテるって言ったじゃん」

ちょ、ちょ、ちょっと待って。

むやみに抱きしめないで。

ミアンちゃんやリノさんとは違うんだよ。

勇磨の腕から逃れようともがいたけど、
無理だった。

「大人しくしろ、バカ。
ナナ、俺のせいで怖い思いさせたし、
傷つけた。
ごめん。あいつら、絶対許さない!」

しばらくして勇磨の腕から力が抜け、
やっと解放された。

また、ドキドキが止まらない状況を
見透かされたくなくて、
慌ててホコリだらけのジャージをはたいて
平静を装う。

「えー。違うって。
バレーの練習だって言ってんじゃーん、
全く、なんの事?」

全力でトボけてみせた。

「バカなの?
あの言い訳で俺が納得するとでも?
なんでナナもあれに乗るかなぁ。
本当、あきれるよ」

やっぱ、バレるよね。

おかしいもんね、あの状況。