カスミちゃんと付き合う事になって、
1週間もたたないうちに、
ツバサくんから電話があった。

スマホの画面にツバサくんと表示され、
一瞬、迷った。

でも、それは一瞬で、
すぐに思い直して出る。

「なぁな」

胸がグッとくる。

「映画楽しかったね」

相変わらず私の動揺に気が付かず
一方的にしゃべりまくる。

「あのさ、今度の土曜日なんだけど、
コスモワールドの観覧車に行かない?」

え。

なんで、私?

「か、カスミちゃんは?」

別れたって言って。

言って!

「え?カスミちゃん?
カスミちゃんは高い所が怖いんだって。
でも俺さ、落ち着きたい時、
あの観覧車にどうしても乗りたいんだよね」

なんだ、別れてないのか。

やっぱりね。

でも、なら。

「ダメだよ、ツバサくん。
彼女がいる人は他の人と
観覧車には乗らないんだよ」

え、なんで?
観覧車にそんな決まりないよね。
友達だから、いいじゃん。
高い所が怖いのに付き合わせる方が悪いじゃん、

とか電話の向こうで抗議する。

ツバサくんって、こういう所ある。
鈍感というか天然というか。

「それ、バカだろ」

次の日、教室で勇磨に話したら怒られた。

「ナナ、なんて返事したの?
全く、ツバサは俺の話、
1つも聞いてないな。」

イライラして机を叩く。

もう、怖いなぁ。

「怒んないでよ。私はダメだって言ったよ。
でも譲らないんだもん。」

更にイライラして私にあたる。

「で、OKしたの?本心は喜んでるんだろ。
彼女を出し抜いて2人になれるって。最低だな」

私もイライラする。

だったら何だよ。

嬉しかった。

私を誘ってくれて嬉しかった。

だけど、カスミちゃんを誘ったら可哀想だって、彼女を思いやる気持ちが見えたから、
本当に悲しくもなった。

ただ映画が観たいだけ。

ただ観覧車に乗りたいだけ

それは痛いほど思い知ったから。

2人で会っても、もっとツラくなるから。

だから、勇磨に話したのに。

勇磨にも付いてきて欲しかったのに。

でももういいや。

こうなると、勇磨は本当に面倒。
何が引き金でおへそを曲げるか分かんないよ。

「もう、いいや。何でもない」

そのまま黙って席を立った。

ツバサくんに連絡しないと、昨日、
4人で行こうよって提案したんだ。

きっと、その場に行ったらカスミちゃんは、
観覧車に乗るはずだよって。

ツバサくんもカスミちゃんと乗りたいでしょって。

ベランダに出てツバサくんに電話した。

「あ、ツバサくん?今、大丈夫?」

ツバサくんの後ろで賑やかな声がする。
休み時間なんだ、一緒なんだな。