ああなった勇磨は面倒なんだよな。
完全に中2病は治ってはいないって事かな。

そ、れ、よ、り、だ。

チカの彼氏だ!

9組の教室を覗いた。

覗いたところで、
誰が彼なのか分からない事に気がつく。

バカだな、私。

諦めかけた時に、
周囲が色めき立って急に注目された。

振り返ると、やっぱり勇磨がいた。

「勇磨って、かくれんぼできないね。」

また眉を上げる。

「ふんっ、なんだ、それ」

だから、鼻で笑わないで。

「そんなに中井を見たいの?」

ちょっとスネたような顔をする勇磨。

うん、見たい。

すごく見たい。知りたい!

懇願する私に嫌な顔をしてから
9組のドアを開け声をかける。

「おい、中井、ちょっといい?」

勇磨に呼ばれて振り返った彼は
チカと同じく真っ黒に日焼けした、
背の高いイケメンだった。

うっそ。

カッコイイじゃん、よくやったよ、チカ!

「おお、工藤、久しぶり。」

声も笑顔もいいじゃんか!

中井くんは私を見た。

「あれ、木下さんだよね?」

え、なんで、知ってるんだ?

「うん、そうだけど、なんで知ってるの?」

私の問いに中井くんが赤くなる。

あ、そうか。

チカか。

答えを聞く前に顔に出る。

ちょっとぉ、2人ともそっくりじゃん。
お似合いカップルだ。

「も、も、もしかして、
チカちゃんから聞いた?」

うん、うん、と頷く私。
話が分からずポカンとする勇磨。

「どんな人なのかなって、
見に来ちゃった。ごめんね。
でもイケメンでびっくりしたよ!
いいなぁ、チカ」

頭をかいて照れる。

すごいなぁ、チカ、いい人見つけたよ。

なんだろ、感慨深い。

教室に戻りながら、
勇磨の様子がおかしい事に気がついた。

「どうしたの?勇磨?」

立ち止まって私の前に立ち、じっと見る。

「中井の事、イケメンって言ってたな。
お前、ああいうの、好きなんだな。」

え、あれはイケメンでしょ、誰が見ても。

というか、

イケメンじゃなくても、イケメンって言うだろ、親友の彼氏だ!

私の言葉に焦れたような顔をする。

「わー」

突然叫んで自分の頭をくしゃくしゃにしながら座り込んだ。

「何?どうしたの?」

立ち上がって私の肩を掴んでじっと見つめる。

周囲から悲鳴が聞こえる。

そしてまた座りこんで叫ぶ。

「ないないない、あり得ない」

何?どうしたの?

病気?

「勇磨!どうしたの?どっか、痛いの?」

私も座って勇磨の肩を揺らした。

頭を抱えていた勇磨がふと目を上げて私を見た。

今まで見たことがないくらい優しい目だ。

距離が近くてちょっとドキドキした。

「お前のせいだ。ナナが中井に会いたがるから。
誤解して、それでムカつくほど思い知らされた。お前、嫌だ」

は?

なんの事を言ってるんだろう。

今日の勇磨は本当に面倒だな。

ふと思いついた。

「もしかして中井くんをイケメンって言うのに
勇磨がモテる事を認めないのが嫌とか?
小ちゃいなぁ。
外見で言ったら勇磨はものすごくイケメンだよ。
私も勇磨の顔、好きだよ。
でも、みんな認めてるんだから、
欲張らなくても。」

全く、モテるのが嫌って言ったくせに
結局は認めて欲しいんだな。

なんだか、あきれちゃって、
スネ勇磨を置いて教室に戻る事にした。

だけど勇磨はその私の腕を掴んで引き寄せた。

よろけて勇磨の胸にぶつかった。

また悲鳴が上がる。

勇磨が近い!

「ナナちゃん、俺、気付いちゃったからさ、
覚悟してね。」

ニヤっと笑って私を見る勇磨にまたドキドキする。

悔しいから、何でもない素振りをした。

「はいはい」

ヤバイ、今日の勇磨、変だ。

振り切って教室へ向かった。

そんな私達を影からこっそり見てる集団に、
その時は気がつかなかった。

悪意と嫉妬丸出しの軍団に。