昨日は色々ありすぎて頭が整理しきれてない。

ツバサくんに彼女ができた。

衝撃的な出来事なのに、
まだどこかで受けとめられていない。

ツライけど泣けずにいた。

香澄ちゃんの存在を知った時、
2人の姿を見せつけられた時は泣けたのに。

決定的に事実を突きつけられたのに、
泣けなかった。

勇磨がいてくれたからなのかもしれない。

そう思った。

途端に昨日の失態を思い出して赤くなる。
ぎゅっと抱きしめられた事を思い出す。

いやいや、あれは仕方ない。

仕方なくないのか?

あー何しちゃったんだろう、私。

「おはよ」

振り返るとチカがいた。
長い坂道を私を見つけて走ってきたのか、
息が切れてる。

「おはよ」

ニコニコ笑って私をつつく。

「何?チカ?」

周りをキョロキョロ見渡してそっと話しかける。

「工藤くんとデートしてたでしょ、昨日。
海で見かけたよ」

う、わ。

見たの?

いつ、見たの?

ぎゅっとしてるとこ?

誤解です。
でも、私と勇磨、誤解されるような事、してた。

でも慌てて否定した。

「違うっ!違うよ。
ツバサくんも一緒だったよ」

チカがキョトンとする。

「え、いたの?
私が見たときは2人で海に入って、
イチャついてたけど。
ツバサは何してたんだ?」

あ、そこか。

ちょっとホッとする。

それは。
言いにくいけど、チカに隠し事はできない。

これまでの事、昨日の事を話した。

チカは黙って聞いていた。

話が終わるとチカがそっと
私の背中を叩いて慰めてくれた。

「ナナミが告白しないって、
決めて納得してるなら、
それでいいと思うよ。
友達でいたいんだもんね。
でも、ツラくなったら、私に言ってね。
あ、でも、工藤くんがいるか」

最後は冷やかした。

もうっ、違うって。

勇磨は友達だし、
少々スキンシップが激しいのは、
姉妹に挟まれて育ったからだ。

女の子に触れるのに慣れてるからだと思う。

「あ、でもさ、ナナミさ、
ファンクラブ、ヤバくない?
この前も工藤くんと一緒に帰ってたって
みんな騒いでたし。
昨日のデートも、
ファンクラブにバレたらまずいよね。」

そんなの、誤解だし、知るか。

今まで勇磨関係で絡んでくる子はみんな、やり返してるし。

ファンクラブだって蹴散らしてやる。

「ふーん。さすが、ナナミ。
でもさ、工藤くんと友達になるには、
ファンクラブや女の子敵に回すじゃない?
そんなリスク抱えてまで、
仲良くしたいって事はさ。
それは、ちょっとは好きって事だよね?」

うん、まぁ、好きだけど、
でも、チカの言う好きは違う好きだよね。

っていうか、
さっきから恋愛絡みの話ばかりだけど、

「ねぇ、チカ。チカは昨日、誰と海にいたの?」

私の勘は当たった。
チカはみるみる真っ赤になる。

お、これは。

「誰と言ったんですか?ほら、言ってよ」

白状した。

同じテニス部の中井くんとデートしたらしい。

「中井くん?え、何組?見に行かないと。
いいなぁ、チカ。付き合うの?」

チカが答える前に顔で分かった。

もう、チカちゃんったら、彼氏ができたのね。

「そっか、良かったね。チカ。」
「うん。」

チカに彼氏かぁ。
中学の時は想像もしなかった。

テニスしか頭にない、
飾り気もない女の子だったのに。

そっか、そっか。

チカと教室の前で別れた。
席について窓の外を眺める。

チカに彼氏かぁ。
先越されたな。

「中井くんかぁ」

後で見に行ってみようかな。
ちょっとにやけた。

ガタンと音がして勇磨が机にカバンを置いた。
そのまま不機嫌そうに席についた。

「おはよ。昨日はありがとう。
なんか不機嫌そうだね。」

片眉を上げて私を見る。
眉を上げるのは癖なんだな、きっと。

「ナナこそ、何、ニヤけてるんだよ。
中井ってテニス部のだろ?」

呟きが聞こえたのか!

思わず勇磨の腕を掴んだ。

「中井くん、知ってるの?
ねぇ、どんな人?カッコイイ?性格は?
会いたいんだけど!」

私の手を振り払う。

「は?お前、昨日の今日で節操ねぇな。
サカリが付いた猫みたいだな」



また話が通じない。

なんだ、今日の勇磨、ちょっと面倒だな。

「なんでもないや、大丈夫。
自分で見てくるから」

まったく、もう。

そのまま教室を出た。