「じゃあ、今日は、ここで別れようぜ。
俺はナナとイチャイチャしたいからさ。」

勇磨!

体を離して抗議しようとする私を、
ガシっと掴んで離さない。

バカ!

「は?イチャイチャって…
工藤、俺の話を聞いて…」

納得いかないツバサくんの言葉を
カスミちゃんが遮った。

「行こう、ツバサくん。大丈夫だよ。
工藤くんはナナちゃんの嫌なことはしないよ」

少しの間があいてツバサくんが納得した。

「分かった。だけど、工藤。
絶対に、なぁなを傷つけないで。
なぁなだけは傷つけないで」

「うるせっ」

ツバサくん。

そんな事、言うの、ずるい。

切なくなる。

悔しいけど、勇磨に支えられないと
今は立っていられない。

どれくらい、こうしてたんだろう。

ふと勇磨の腕から力が抜けて自由になった。

「ごめんね、ナナ。
でも、見せたくなかったから。
聞こえちゃったと思うけど。」

カスミちゃんと付き合う宣言の事だよね。

分かってた。

ツバサくんの顔見て聞いたら、
もっと傷ついてたから。

きっと勇磨が隠してくれたんだって、
分かってたよ。

少し冷静に聞く事ができた。

「ありがとう」

そう言って笑う私に勇磨は悲しい顔をした。

どうしたの?

「笑うなよ。無理すんな。泣いていいよ。
ブサイクな顔で泣けよ。ナナちゃん」

私を流木に座らせた。

肩にかけてくれた上着のフードを被せ、
顔を隠してくれた。

泣かないよ。

もう、なんか今日はいっぱい泣いて疲れたし。

「いいんだよ、女の子は泣いても。
男を釣る涙以外ならね」

ふざけて笑いながら私の横に座って、
頭を撫でてくれた。

「今日はどこにつかまるの?
また俺の背中につかまる?」

背中を向けて笑う。
大丈夫だよ。

「勇磨の背中、借りたらファンクラブ?
に殺されるよ。」

私の肩を抱き寄せて

「じゃあ、今日はここで泣け。」

だから、泣かないって。
言ってんのに。

背中をトントンされて心が少しずつ温かくなる。

冷え切った体に血が通う。

大丈夫、泣かない。

「勇磨」

胸に頭をくっつけたまま聞いた。

「泣かないけど、少しこのままでもいい?」

誰かの温もりが今は癒される。

「作戦って思わない?
狙ってるとか言わないでよね。」

大人になっても、
誰かの温もりが心を癒す事ってあるんだな。

寂しい時にママに抱きしめられていた時のように。

勇磨がモテるとか、男の子とか、
友達とか、私が子どもじゃないとか、
そんなのどうでもいいや。

今はこうしていたい。

後のことはまた後で考えるから。

少しだけ。

「バーカ」

そう言って両手でぎゅっと抱きしめてくれた。

今日は勇磨にみっともないとこばかり見せちゃった。

まぁ、いいか。

どんな私も嫌いにならないって、
言ってくれたんだし。

今日は勇磨がいてくれて良かった。
本当に良かった。