シーンとした。

ツバサくん。

なんだろ。

どういうつもりで、そういう事を言うかな。

カスミちゃんも青い顔してる。

「真剣に付き合うならいいの?」

勇磨が煽る。
ツバサくんは慌てる。

「いや、まぁそうなら、俺は何も言えないけど。
でもなぁなが何て言うか分かんないし。
なぁなは工藤みたいな派手な奴を
好きにならないと思うし。
でも好きなら、」

何を言ってるんだろう。

ツバサくんは、どうしたんだろう。

自分はカスミちゃんと付き合うのに、
なんで私の事まで構うの?

それに、勇磨を好きにならないって、
何で言い切れるの?

私の事、そんなに知ってるの?

「ナナが俺を好きなら、俺が本気だろうが遊びだろうが、ツバサには関係ないよね。
余計な口出しはするな。」

勇磨が怒った。

勇磨はキッとツバサくんを睨んで、
目線を外さない。

私の肩をグッと引き寄せて見せる。

「ナナはお前のじゃないだろう?
それともお前のなぁなか?
ツバサは俺の事言えるの?」

ツバサくんが怒ってる。

グッと勇磨を睨み返す。

カスミちゃんがツバサくんの腕に絡む。
それでツバサくんがハッとする。

勇磨の腕が強く私を引き寄せ、
自分の胸に私を押し付けるように抱きしめた。

驚いて身動きが出来なくなった。

「俺はカスミちゃんと付き合う。
だけど、なぁなは大事な友達だから。
これからも、それは変わらない。」

ツバサくんの言葉が心に突き刺さり、
じわじわと広がる。

全身の血が引いていく。
体温が下がり震えた。

でも、分かってた。

こうなるのは、もうずっと分かってた。

覚悟もして、た。

勇磨の背中に腕を回してしがみついた。

助けて勇磨、ツライ。

勇磨の腕の力も強くなり、
私の頭を優しく包む。

ツライ気持ちの他に、ツバサくんに対して
抱いた事のない感情が湧いてきた。

怒りだ。

さっきのは何なの?

他の子と付き合うのに私に構わないで。
私を大事な友達とか言わないで。

そんな、調子のいい事言って、
私が諦められなくなる事、しないで。

言ってやりたい。

もう、ほっといて!って。

ウザイって。

でも言えない。

好きも嫌いも言えない。

だから、勇磨のおかげで
ツバサくんの表情もカスミちゃんの顔も
見えなくて良かった。

2人が今、どんな顔をしているのか
見えなくて良かった。

本当に良かった。

震える私の背中を優しくトントンする勇磨。

「じゃあ、お前は口出すな。俺とナナの話だ。
彼女がいるんだから、これからは、
自分の都合のいい時ばかりナナを呼び出すな。
ナナを連れ回すな。いいな、ちゃんと線を引けよ。
その子もそう思ってるはずだぜ」

勇磨。

私の気持ちを全て代弁してくれた。

「私もそうして欲しい」

カスミちゃんの声も加わった。
少しの沈黙の後、
ツバサくんの声が聞こえた。

「やっぱり、やだ。
なぁなに会えないのは。
俺にとってなぁなは特別なんだ。
大事な友達だから」

ツバサくんって。

なんなんだよ。

だけど、イライラする私と
嬉しいって思う私がいるのに気がついた。

私も何なんだろう。

勇磨もあきれたのか、大きなため息をついた。

「ツバサ、お前って。ムカツクな。もう、いい。
分かったよ。じゃあ、ナナと会う時は俺も行く。
それでいいよな。
友達なんだから2人で会う必要ないだろ。」

みんなの様子は見えないけど、
お互い納得し合った雰囲気が伝わってきた。