立ち上がる私を上目遣いで見る勇磨は
イライラを隠さない。

全く、なんで勇磨が怒るわけ?

お節介が過ぎる。

とりあえず砂浜を歩く。
振り返ってツバサくんとカスミちゃんを見た。

ツバサくんが頭をしきりに触ってる。

あれは照れてる時、嬉しい時にする癖だ。

付き合うんだな、って分かった。

ツバサくんがマネージャーの話をした時から、
なんとなく予感してた。

女の子の話なんて今まで出なかったし
カスミちゃんといる時のツバサくんは
私が見た事ない顔をしてた。

知ってた、こうなるの。

流木に座ったまま海を見つめる勇磨も見えた。

本当、ムカツク男!

ガンガン私の触れて欲しくない部分まで
入ってきて心をかき回す。

嫌い!

勇磨、嫌い!

睨んでからまた歩き出した。
ふと足元にピンクの貝を見つけた。

へぇ、こんな貝殻あるんだ。

拾って陽に透かして見ると、
キラキラしてキレイだった。

あんまりキレイで涙が出そうだよ。

海が近くにあっても、
最近はなかなか来なかった。

子どもの頃はこうやって拾って
瓶に詰めて大切にしてたな。

あの頃は欲しい物は欲しいって
言えたのにな。

泣いて騒いでごり押しして、
勝ち取っていたのに。

いつから私は臆病になったんだろう。

言うチャンスは何回も何年もあったのに。

言わずにただ想うだけ。

離れそうになっても止められない。

ツバサくんが笑ってるならいいと、
そんな事さえ思う。

でも嘘じゃないけど嘘だ。

私が笑わせてあげたい。

でも今だって気持ちを伝えようとは思えない。

こんな所で必死に貝を集めて、
何してるんだろう。

それにしてもキレイだな。

このピンクのグラデーションがキレイな貝は
特別だ。

海の水で洗ってみようと思いついた。

もっとキレイに輝くかもしれない。

波打ち際に近づきそっと手を伸ばす。

瞬間、波が大きく寄せて
驚いて後ろへ避けた。

はずみで貝を落とした。

「あ」

慌てて手を伸ばしてみたけど、
波にさらわれてしまった。

ギリギリ保ってた糸が切れた。