ごめん、勇磨。

肩に頭を乗せてる事や、
勇磨の手がまぶたを覆っている事も、
全て棚に上げた。

今は映画も怖いけど、
何よりも前の2人を見たくない。

ツバサくんはホラーものが大好きだ。
もう何回も一緒に行ってる。

不思議とツバサくんと行くと、
怖いなんて思わなかった。

思っても顔に出さずに済んでいた。
なのに、席が離れただけで怖い。

もしも、私も怖いって素直に言えてたら
手を握ってくれてたのかな。

強がらずに素直でいられたら。

でも誘われなくなるのが嫌で、
好きなフリをしてた。

何してるんだろう、私。

涙が出そうになり、こらえる。
こんなところで泣けない。

泣くな!

涙がツーっと溢れた。
慌てて拭く。

ダメダメ、泣くな!

勇磨の手が動き私の帽子を取り、
自分のキャップを目深に被せた。

「いいよ」

それだけ言って私の肩を抱き寄せた。

勇磨の肩と胸を感じでドキドキする。

そういえば前もドキドキしたな。

高校生になると男の子と女の子って、
こんなにも体に違いが出るんだなって思った。

でも、勇磨の体温が伝わって落ち着いてくる。

泣いていいよって事だろうけど、
不思議と涙は止まった。

あったかい。

「ナナ、俺さ、さっきのアレ、嬉しかった。
俺の事友達として大好きって言ってくれたやつ。
外見だけで騒ぐ女ばっかで、
誰も俺の中に興味ないからさ。」

耳元で囁く勇磨の声は少しかすれていた。

モテ男くんも色々と苦労があるんだな。

確かにもてはやされても、
誰も本当の自分を見てくれないのは
寂しいよね。

結局、1人だもん。

しかも、
妬まれて男の子の味方も、
いなかった時期もあったって。

そう考えると勇磨はよくここまで成長したよ。

この程度のこじらせは、いい方だ。

励ましてあげたくなった。

勇磨の背中に手を回してトントンしてあげた。

「勇磨、泣いてもいいよ」

帽子のツバをぐいっと持ち上げ、
私の顔を覗き込む。

「暗くて顔、見えないや。
今、ナナ、すげぇ得意げな顔してんだろうなぁ」

うん、まぁね。

「ナナ、大変だな。
さっきまで泣いてたのに、もうエラそうで。
朝から落ち込んだり笑ったり怒ったり忙しいな。
でも、なんか見てておもしろいし、
俺もナナが好きだ」

ドキン。

え。

好きって。

勇磨!

「それは、愛の告白?」

私の問いに、慌てふためく。
その姿に笑いがこみ上げた。

「いや、バカ、ナナだって俺の事」

必死に言い訳する。

「いーよ、分かってるって。
ただ、ちょっとドキドキした。」

今度は勇磨が得意げになった。

「さっきは、
俺にドキドキしないって言ったのにな。
やっぱ、俺の魅力って最強なんだな。」

言ってろ!

「怒ってんの?ナナは忙しいな。
あんま生意気言うと肩、貸さないぞ」

そう言って私を引き離す。

べ、別にいいんだけど。

頼んでないし。

体を正面に向けて座り直し、
スクリーンを睨む。

「お前、かわいくないな」

勇磨を無視した。

大丈夫、最後まで見てやる!

ツバサくんとカスミちゃんの
シルエットも含めて見てやる!

なんか元気出た。

やっぱ、勇磨ってアホだから楽しい。

私がツラくて耐えられない時、
勇磨がいてくれると和らぐ。

それは勇磨の魅力だ。

みんな、そういうの分かってて好きになるのかな。

ちょっと分かった気がする。