心が軽くなり勇気も出てきた。

勇磨の背中から離れて、
ベンチから立ち上がった。

「よし」

と気合を入れた。

勇磨には泣きはらした顔は見せたくないから、
背中を向けたまま、お礼を言った。

「ありがとう。スッキリした。じゃあ、帰る」

そのまま歩き出そうとした私の腕を、
勇磨が引っ張った。

バランスを失い、座ってる勇磨の上に倒れた。

勇磨が私を受けとめる。

膝の間に入り込み背中に、
勇磨の胸の筋肉と硬い腕を感じて
思わず声を上げた。

「わー!何すんの!変態!やめて」

勇磨が私を離して爆笑する。

「なんだよ、倒れて来たから受け止めたのに
変態呼ばわりすんなよ。」

お、おいっ

「なんで倒れたと思ってるの?
勇磨が引っ張るからでしょ。バカ!」

まだゲラゲラと笑う。

「顔!」

そう言われて泣きはらした顔だと気付く。

あー。

まぁいいか。

勇磨だもんな。

「もう、いいよ。
見られたくないと思ったけど、
勇磨にカッコつける事なかった。」

諦めた。

いーや。
だいたい、泣くのも勇磨の前だけで
他の誰かなら我慢してた。

「なんだ、それ。俺にも気を使え」

そう言って前ボタンを外し
背中の濡れたシャツをパタパタする。

シャツを扇ぐから上半身がまたはだける。
目線をそらし困る私を見て余計に扇ぐ。

「おもしれー」

もう、あったまきた。

笑いが止まらない勇磨に背を向けて横に座った。

ムカつく!

なんなの、勇磨って。

中2病の時もイライラしたけど、
今はなんかバカにされてるみたいで、
余計にムカつく!

不機嫌にふくれる私に更に大爆笑する。

「あれ、勇兄とナナちゃんだ!」

その声に振り返ると、
ミアンちゃんとリノさんが手を振っていた。

私も立ち上がって手を振った

2人がニコニコして近づいて来た。
相変わらず、2人とも超かわいい。
なんだ、最強姉妹!

横の勇磨をチラ見して残念さに同情した。
それに気付いた勇磨は、
あからさまに嫌な顔をする。

負のオーラのみ受け継いだ男。

「ナナちゃん、どうしたの?泣いてたの?」

そうだ、私、泣きはらしてた。
なんてお見苦しいとこを。
リノさんが優しく抱きしめてくれた。

「勇磨!女の子、泣かしちゃダメでしょ。
ごめんね、ナナちゃん。」

慌てて誤解を解く。

「違うんです。
私、ちょっとツライ事があって、
勝手に1人で泣いてて。
勇磨は手伝ってくれたんです。」

とたんに2人が笑う。

「やだーナナちゃん、手伝うって何を?」

ミアンちゃんに聞かれ

「泣くのを」

その答えにまた2人が笑う。

「まぁ、そうだな。手伝ったかな。」

勇磨も笑う。
何か変な事言ってるのか、私?
リノさんが私の顔を覗き込んで、
ほっぺをぷにっと触った。

「勇磨が女の子と、
あんなに笑って話してるの初めて見た。
ナナちゃんとだから笑えてるんだと思うの。
すごい力だと思う」

ミアンちゃんも

「うん、ミアンも初めて見た!」

まぁどうせ、
私を女として見てないって事でしょ。
いーよ、いーよ。別に。

「勇磨にとって私は、
女の子じゃなくて友達だから。」

ふーん、とリノさんは勇磨を見る。

「なんだよ、リノ」

勇磨が眉を寄せる。

「別に。」

リノさんとミアンちゃんは目で会話して頷く。

「じゃあ行くね。ナナちゃんまたね。
勇磨、友達と仲良く、ね。」

含んだ感じでリノさんが言った。

「またね、ナナちゃん。
勇兄、ナナちゃんは女の子だからね。」

ミアンちゃんも何故か念を押して帰って行った。