線なんて、ある訳ない!

私とツバサくんの間に、ある訳、ない。

見兼ねた勇磨が私の腕を掴み、
ツバサくんのそばまで連れてきてくれた。

「ツバサ、お疲れ」

いきなり名前で呼ばれたツバサくんは、
驚いて勇磨を見る。

そして私に目を移し、ああと納得する。

「さっきのなぁなの友達か。
ありがとう。応援してくれて」

ツバサくんの笑顔にホッとする。

「わりぃ、応援してなかった。
今、来たところ。
俺は工藤勇磨。よろしくな」

馬鹿正直な勇磨が自己紹介して笑い合う。

「あの、私もいい?
私はマネージャーの立川カスミです。
あなたは?」

その質問は私に向けられていた。

「あ、あの」

ちょっと緊張して声が震える。

「あの、木下ナナミです。
ツバサくんと中学が一緒で」

ふーん、そうなんだ。
とにっこり笑う彼女はかわいくて可憐だ。

「ツバサくん達、もうずっと頑張ってて、
その頑張りをずっと見てたから、
私、泣いちゃって恥ずかしい」

また涙ぐむ。

ずっと、ずっと、ってうるさい。

そのカスミちゃんをまたツバサくんが気遣う。

「ありがとう。一緒に悩んでくれたり悲しんでくれて嬉しいよ。
今度は一緒に喜べるようにがんばるから、
もう泣かないで」

そう言って励ます。
目の前でまた線が引かれたように見えた。

私はやっぱり線の外だ。

ツバサくんを励ます事ばかりで、
同じ目線に立てない私と違う。
彼女は同じ目線で同じように感じて体感してる。

だから一緒に泣いたり笑ったりする権利があるんだね。

私はやっぱり入れない。

こんなの、初めてだ。

いつも私がずっとツバサくんのそばにいたのに。

どうしたらいいんだろう。

この気持ち。

このまま、ここにいて2人を見るのが辛い。

逃げたい。

さりげなさを必死で装って

「じゃあね、ツバサくん。お疲れ様。またね。」

それだけ言って背を向けた。

「なぁな、ありがとう。
あ、今度の土曜日、
13時にサンフラワーガーデンの映画館前でいい?」

気持ちが遠ざかってたから、
一瞬何を言われてるのか分からなかった。

ああ、そうか。
この前、電話で言ってたな。
なんか観たいのあるって。
すぐに気付いて笑顔を作った。

「うん、わかった」

だけど。
私の声に被せるようにカスミちゃんが言った。

「え、映画観るの?何観るの?
私も映画好きなの。いいな。」

何、そのアピール!

驚いて言葉も出ない私の横で、
ツバサくんはにっこりと笑う。

「じゃあカスミちゃんも一緒に観ようよ」

うそ、やめて。

え、え、本気で言ってるの?

なんで3人で。

どういう状況?

カスミちゃんは1人で大喜びしてる。

嘘でしょ、嫌だ。

でも何で嫌かは言えない。

かと言って2人で行かせるのも嫌!

どうしたらいいの。

でもこの雰囲気を私が壊す事はできない。

諦めかけたその時、
勇磨が大きなため息とともに空を仰いだ。

「仕方ねぇなぁ。じゃあ俺も参加する。
みんなで行こうぜ」

え?

勇磨、なんで?

勇磨の顔をまじまじと見た。

冗談じゃなくて本気で言ってくれてる。

なんで?

でも、少し心が軽くなったような気がした。

良かった。
3人は本当にキツかった。

「じゃあ土曜日」

そう言ってツバサくん達と別れた。

「じゃあ俺達も帰るか」

先を歩く勇磨を追いかけた。
並んで歩いてる私達にまた悲鳴や罵声。

「なんか今、ブスとか、聞こえた」

勇磨が笑う。

誰だよ、ブスって言ったの!

ブスじゃないっ!

周りの子を睨んで歩く私を見て、
呆きれる勇磨。

「なんで、そういう勝気な所を
ツバサに見せないの?
立川?あの子にもその睨みを、
きかせてやれば良かったのに。
弱々で小さくなっちゃってナナらしくねぇな。」

私らしくない、か。

私ってどんなだっけ?

分かんないや。

でもツバサくんには何も言えない。
カスミちゃんを誘わないでなんて言えないし、
2人で行きたかったとも言えない。

それは私らしくないのかな。

私らしいって何?

桜並木を見上げながら横を歩く勇磨に聞きたいけど、
きっとロクな事、言わないだろうな。

だけど、なんで土曜、一緒に来てくれるんだろう。

勇磨って不思議。