大きく深呼吸をする。

大丈夫。

何も変わってない。

でも、大丈夫なんかじゃなかった。
思った以上に傷ついた。

ツバサくんのボタン、付けたかった。

これからは、あの子が付けるのかな。

初めて感じた疎外感。

ツバサくんの事は全部、私が1番だったのに。
じんわりと涙が沸くのが分かった。

ダメだ、今は泣けない。

勇磨がいる。

サッと縫って勇磨に手渡した。

裁縫セットをしまう手が震える。

うつむき髪で顔を隠した。
でも勇磨は気がついてた。

私の頭をポンポンと叩く。

「なんだよ、いつもの威勢はどうした?
あんな軽い女、ぶっ飛ばしてやれよ」

ふん、自分だってヘラヘラしてたくせに。

勇磨の手を振り払う。

女の子とまともに話す勇磨、初めて見たよ。
やっぱ、男の子はみんな、
ああいう、かわいい女の子が好きだよね。

女嫌いな勇磨も惹かれるなら、
一般男子はイチコロだね。

「俺、別にあんなの好きじゃねぇし。
なんだったら1番苦手。
ナナの為にちょっとツバサ?を
煽ってみたんだけど、アイツ、鈍感だな」

何が、私の為だよ。

カッコつけて。

「これ、サンキューな。うん、上出来!
見直したわ、マジで」

そう言ってユニフォームを着た。

上出来って、上から目線。

全く、何様男。

でもまた心がキュッとなる。

「あーもう裁縫セット、
持ち歩かなくてよくなるな。」

思わずつぶやいた。
勇磨は私の前に座り上目遣いに笑う。

「その裁縫セットは、
下心のかたまりだったんだな。
やっぱ、見直し撤回。」

私もちょっとふてくされた顔して笑った。

「いけない?
勇磨がされてる鬱陶しい事を、
私だってしたくなるんだもん。
ボタンが取れたら、それはチャンスだよ!
勇磨。」

チャンスかぁーと上を向いて笑う。

「でも、アイツらとナナは違う。
下心セットはそのまま持ってろよ。
チャンスはまだあんじゃねー。
それに俺のも縫ってもらわないといけないしね。」

吹き出した。
なんで、勇磨のまで。

「だって、ナナ。
俺のを解放したら戦いが起きるぜ。
平和な学生生活を送れない。」

そこまで言ってから私の顔を見て、
タイミングを計る。

「中2病」

2人の声が重なり爆笑した。

「ほら、行ってこいよ。試合始まるぞ。
俺も走り込み終わったら顔出すよ。
マネージャーに呪いかけて来い!」

勇磨に送り出されて、さっきまでの暗い泣きたい気持ちがなくなってるのに気がつく。

初めて勇磨に感謝するよ。

サンキュー。

よし、あのキャピキャピガールに呪いかけてやろう!