白いユニフォームに身を包んだ
ツバサくんが走ってくる!

本物だ。

夢じゃない!

ニコニコ笑って手を振る。

ツバサくん、また

「大きくなったね」

私の横で勇磨が
「親戚のおばちゃんか」とツッこむ。

無視。

「なぁな、試合、見に来てね、絶対!
がんばるから。」

うんうん。
行くよ、行くに決まってるじゃん!
頑張ってね。
応援する!

また勇磨が
「お前はかぁちゃんか」とツッこむ。

無視。

「なぁな、何してるの?」

ふと、私の隣の勇磨を見た。

上半身裸の勇磨が腕を組んでる。

何って。

勇磨がニヤッと笑って私の肩を
ぐいっと引き寄せ、自分の頭を乗せた。

「何ってねぇ、ナナ。」

え、ちょっと、何?

勇磨がおかしい。

周りの悲鳴にツバサくんが驚く。

そして固まる私とニヤつく勇磨を見て、
勝手に頷いて納得する。

「あー、ユニフォーム、縫ってたのか。
なぁな、上手だもんね。
あ、じゃあコレもお願いしようかなぁ。
困ってたんだ」

ニコニコ笑って自分のシャツをカバンから出した。

ボタンが3つも取れかかってる。

「なぁな、いないからさ、直せなくて。」

つ、ツバサくんって。

なんてかわいいんだろう。

邪悪な勇磨の腕と頭を払って、
シャツを受け取った。

「いーよ。すぐに付けてあげるから」

嬉しそうに笑うツバサくんの後ろから、
知らない女の子が顔を出した。

彼女はツバサくんの肩にそっと触れた。

「ツバサくん、ダメだよ。
すみません、私がつけます。」

そう言って私の手からシャツを取り上げ、
またツバサくんに触れる。

驚いて見つめる私に、
彼女はにっこりと笑った。

「ごめんなさい。他校の方に迷惑かけて」

お揃いの野球帽を目深に被り、
その下から長い髪が両側から見えている。

ツインテール。

目鼻立ちはハッキリしていて美人だ。

部活のジャージを羽織ってるものの、短めの制服のスカートが最強スタイルを演出してる。

だけど!

他校の方ってなに?

なんで、あなたが謝るの?

もう、すぐに感じた。

例のマネージャーだ!

嫌い!この子、嫌い!

でもツバサくんは無邪気に
ニコニコ笑って彼女を見る。

「え、いいの。カスミちゃん」

ツバサくんの言葉が突き刺さる。

今、カスミちゃんって、名前で呼んだよね?

ツバサくんが、下の名前で呼び合う仲の子は私だけだったからショックが顔に出る。

「うん、マネージャーの仕事だよ。」

そう言って目を合わせる。

2人の世界

ボタンの取れてる部分を、
2人で確認しながら笑い合う。

入れない。

「いいなぁ、そんな個人的な事してくれるマネージャーいるんだぁ。
それは勘違いしちゃうなー。
俺の事好きなの?って」

裸の勇磨が彼女に笑いかける。

勇磨まで。

勇磨に笑いかけられた彼女は、
ちょっと頰を赤らめてかわいく笑う。

「え、そんな。でも、あなたのボタンをつけたい子は山ほどいるんじゃない?」

勇磨も微笑み返す。

「そうだね。だけど、ナナがつけてくれるからさ。誰にもさせないんだ。」

ツバサくんが勇磨と私を、
ちょっと不思議そうに見た。

彼女は「えーステキ」とか「ラブラブ」とか
意味のない単語を並べて勇磨と笑い合う。

こんな勇磨、初めてみた。

まともに女の子と話して微笑んでる。

勇磨も心を許すなら、
ツバサくんはイチコロだろうな。

「あ、じゃあ、なぁな、頑張るね」

必死で動揺を隠して笑った。

「うん、応援するね」

2人の後姿をじっと見送った。
彼女がツバサくんに寄り添う。

「あれ、絶対、ツバサを狙ってるぜ。
ナナ、あんなのに太刀打ちできんの?」

横で勇磨がつぶやく。

「何、何の事?」

心臓がドキドキして手が震えるのを、
必死で抑えて強がった。

「ふーん。いいけどね、別に」

勇磨が含んだ言い方をするけど耳に入らない。

ツバサくんが行ってしまう。

女の子と並んで背を向けて。

中学の時もツバサくんが女の子と話してるのは見た。

だけど、こんなに不安になったのは初めてだ。

何がいつもと違うんだろう。

私の知らないツバサくんがいた気がする。

ううん、気のせい。大丈夫。

心をシャットダウンして、
勇磨のユニフォームを繕った。