とうとう試合当日を迎えた。
朝から落ち着かない。

ツバサくんに会える。

なんだろ、いつも会ってるのに、
今日は特に落ち着かない。

あの、マネージャーも来る。

そのせいだ。

どんな子なんだろ。

かわいいのかな。

いや、実際に会ってみたら
心配いらないくらいの男勝りとかあるかも。

気のいい世話好きなおばちゃんみたいな。

期待してしぼむ。

そんな訳ないか。

不安と妙な緊張感に、
押しつぶされそうになる。

でもツバサくんに会いたいなぁ。

野球してるツバサくん、
また応援できる。

嬉しい。

そっちの方が勝った。

放課後、教室の窓から校庭を見渡した。
季節が初夏になろうとしてる。

時計を見て慌ててトイレに駆け込む。
髪を結び直して最終チェック

よし、行こう。

校庭へ向かった。
野球部が集まってるのが見える。

まだ北高は来てない。

花壇の脇を通り過ぎた時、
勇磨の怒号が聞こえた。

座ってる勇磨を取り囲むようにしていた女の子達が、パッと散った。

あーあ。

またやってる。

本当、女嫌いなんだな。

でも女の子達は勇磨が好きなのに、かわいそう。

「勇磨、何してんの」

ちょっとキレ気味に声をかけた。

「あの子達は勇磨が好きなんだから、
少し優しくしてあげたら?」

今度は勇磨がキレる。

「は?そんなの全員にしてたらキリがない」

そうね、はい、すみませんでした。

みんながあなたを好きなんだもんね。

ムカツク!

「まぁ、いいけどね。
あんまり怒ると早死にするよ」

それだけ言って立ち去ろうとした。

「ねぇ、ナナ、裁縫できる?」

そう言って自分のユニフォームをヒラヒラする。
脇が大きく裂けている。

「練習で引っ張られて裂けた。縫ってよ。」

うん、まぁ、私、家庭科の成績いいしね。
でも、それこそ、

「マネージャーにやってもらえばいいんじゃないの?」

私の言葉は無視して立ち上がり、
ユニフォームを脱ぎだした。

は、ちょっと、何してんの?

やめて、脱ぐな、バカ。

慌てる私に爆笑しながら

「あ、そうか、
ナナはこういうの慣れてないのか。
男兄弟いないもんな。ごめんごめん。
でも脱がないと縫えないだろ。
お前、俺に針刺しそうだし」

文句言うなら尚更マネージャーにやってもらえ。

「ヤダ、さっきの見ただろ。
俺のユニフォームが破れたの、
チャンスだと思ってんだぜ。
本当、鬱陶しい。」

それ、考えすぎじゃない?

本当、勇磨って

「中2病」

私が言う前に勇磨が言った。
顔を見合わせて笑った。

仕方ない縫ってやるか。

カバンから裁縫セットを取り出す。

勇磨が感心する。

「ふーん。ナナも女の子なんだな。
こんなの持ち歩いてるんだ。見直した」

ただただ感心する。

あなたに見直してもらってもね。

それに、私が裁縫セットを持ち歩いてるのは、
ツバサくんがユニフォームのボタンを、
すぐになくすからだ。

だから裁縫セットもボタンも
たくさん持ち歩いてる。

その癖が今も抜けない。

今は誰に取り付けてもらってるんだろう。

頭をよぎった疑問に押しつぶされそうになる。

目をつぶって気持ちを切り替えようとした
その時。

「おーい!なぁなぁ!」

遠くから大きな声で呼ばれた!

その声だけで、
マイナス思考が一気にぶっ飛んだ!

「なぁな、なぁな!」

世界がぼやけて声の主だけが浮き上がる。

その一瞬で景色が変わった。