眠い目をこすって支度を始めた。

今、何時よ!

え!4時半じゃん!

もう、なんだよ。

朝から鏡に向かって1人文句を言った。
昨日、工藤くんに送ってもらった別れ際に

「朝練な。
5時に公園のバスケコート集合。
1分でも遅れたら教えない」

そう言われた。

「私、夜型なんだけど」

そう言うと、また冷たい目で睨まれた。

「自分が女だって事を自覚しろ。
夜、ウロウロする女はアバズレだ」

アバズレって。

なんだ、それ。

だからって朝かぁ。

「いいか。俺が教えるのは朝だ。
必ずシュートできるようにしてやる。
約束する。
だから木下も約束を守れ。
夜は公園で練習しない。いいな。
あと、俺に教わってる事を他の奴に言うなよ」

うん、まぁ。
分かった。

「約束する。だけど、
最後の他言するなって言うのはアレだよね。
あなたを狙ってる一味に私も狙われる的な?
スパイ活動でもしてるの?」

完全にバカにしてる私に、
片眉を上げて口を曲げて笑った。
鼻で笑う以外の笑い方。

「木下って、バカだな。
見たい物だけ見るタイプなんだろ。
まぁいいか。じゃあ明日な」

そう言って帰って行った。

バカってなんだよ!

でも。

不思議、あんまり嫌な感じはしなかった。

昨日はまともに話が通じたし、
相変わらず感じは悪いけど、
悪意だけじゃない気もした。

だけど、
早朝から、陰気野郎に会うのは、
1日の運が尽きる気がする。

重い体と心を引きずって公園に入ると、
もう陰気野郎は来てた。

素早くドリブルをし、途中クルクル回る。
止まってボールを左右に揺らし、
体を右に行くと見せかけて左にまたドリブルし、
体半回転させながらシュートする。

何?この無駄な動き。
必要?

「よお、遅れずに来たな。」

そう言ってボールを人差し指に乗せて回す。

「おはよう」

そう言う私に

「ああ、おはよ」

そう答えた。

思わず2度見した。

え?今、おはよって言った?

分かるの?挨拶?

覚えたの?常識!

良かった。

少しまともな人間に近づいてきたのかも。

ちょっと感動して涙ぐんじゃったよ。

「何、泣いてんだよ。
そんな手に乗らねぇって言っただろ」

いーよ、いーよ、それでこそ陰気野郎!

「だって、挨拶できるようになったじゃん。
人としての基本ができた!
良かった。上出来だよ。
これから1つずつさ、
コミュニケーションの勉強してきなね」

タオルで汗を拭きながら、
また片眉を上げ口の端を上げて笑う。

「ほら、準備運動しろ」

そう言って柔軟をひと通りやらされた。

「じゃあ、まずはシュートしてみろ」

ボールを持たされゴールの下に立つ。
その瞬間また罵声。

「木下!バカか。
そんな真下でどうやって入れるんだよ、
少しは考えろ!」

うームカツク。

睨む私にすかさず追撃する。

「なんだよ、その目は。やめてもいいんだぜ。
体育委員のくせにシュートできない奴なんて歴代いないしな。
伝説をつくりたきゃ俺は降りる」

負けた。

私の負けだ。

これは大人しく悪口も罵声も耐えるしかない。

「お願いします」

私の声に満足気に頷く。

終わったら殺す。

だけど、悔しいけど工藤くんの指導は的確だった。

私の出来てない部分を分かりやすく教えてくれる。

今までのイメトレとお兄さん達とのお遊びでは習得できなかった。

工藤くんって人に教えるの得意なのかもしれない。

私がそう言うと、ちょっと照れた。

それも驚きだった。

照れる事もあるんだ。

でも私の運動神経のなさは最強で、
約束の1日では全く無理だった。

「じゃあまた、明日、特訓な」

その言葉を聞いて安心した。

明日も教えてくれるんだ。

「約束だからな。シュート決まるまで付き合う。」

そう言ってくれた。

もしかしたら、いい奴って事もあるのかも。

「じゃあ、そろそろ学校に行く時間だな。
木下、先に行け」

そう言ってまたゴールを狙う。

「工藤くんは?一緒に行けばいいじゃん」

言ってから後悔する。

あれ、これまた勘違いされるパターンだ。

「俺と登校したら明日から生きていけないぜ」

思わず吹き出した。

「そうだね。狙われてるんだったね。
ごめんごめん、じゃあ1人で行くね。
今日はありがとう。
工藤くん、くれぐれもスナイパーに気をつけてね。ぷぷ」

本当、中2病って事さえなければ友達になれるのに。

でも今は陰気野郎ではないのかな。

話は通じるしいい所も少しは見えた。

そのまま学校へと向かった。

よし、今日もいい日になれ。