会場が静まりかえる。

私は舞台の中央に座り、
頭を抱えるポーズを取った。

静かに曲が流れる。

ツバサくんを好きだった私。

髪の長い子が好き。
帽子の似合う子、思いやりのある子、
甘いものが好きな子、趣味の合う子、
彼色に染まりたくて自分を見失っていた。

自分を消してでも欲しかった。

でもそんな恋は相手には伝わらない。

上手くいかなくて、
自暴自棄になったり平気なフリをした。

でもそんな時に勇磨に
「どんなナナも俺は嫌いにならない」
って言ってもらった。

好きなように、
思うように生きようって、
勇気を貰ったんだ。

私のソロにみんなが集まる。

曲調が少し変わり早くなる。

気がつかなかった、
勇磨への想いも勇磨の想いも。

海辺で拾ってくれた貝殻。

「もっといいのが見つかって良かったな」

ツバサくんへの気持ちが変わり、
勇磨の存在が大きくなった。

怖かった。戸惑った。

ふざけてるのかと思って傷つけた。

見ないフリをした事もある。

夢中になる物を見つけて、
勇磨をうるさく思う事もあった。

でも、背中を向けられるとツラくて。

誤解だって言いたいのに、
壁を作られて乗り越えられず、
背を向けた。

このままじゃ失うと気付いて、
初めて好きだって認めた。

また曲調が変わり明るくなる。

私の心が羽ばたく。

「勇磨が好き。勇磨だけ大好き」

言えた。

いつからかなんて分からない。

たぶん、きっと、
初めて会った時から、
好きだったかもしれない。

これからもずっと好きだよ。

勇磨がいてくれると自由になれる。

勇磨が信じてくれるだけで強くなれる。

私も勇磨にとってそうでありたい。

力になりたい。

髪を切った。

私は好きな私になる。

自由になる。

大丈夫。

どんな私も好きだって言ってくれる。

最後はまた私のソロだ。

羽ばたく鳥のようにステージを舞う。

シフォンのスカートがふわふわと
天使の羽根のようだ。

殻に閉じこもっていた私は、
勇磨のおかげで、みんなのおかげで
羽ばたける。

曲の終わりにみんなが集まり、
私に手を伸ばす。

私は更に上に手を伸ばす。

そしてエンド。


しばらく静寂に包まれた。

私達の荒い呼吸の音だけが響く。

みんな、息を呑んで私達を見つめた。

ピーと誰かが口笛を吹いた。

その音に弾かれるように、
体育館が割れるほどの歓声が響いた。

「ナナ!」

って叫ぶ声がする!

勇磨だ。

押し寄せる観客を掻き分けて、
ステージに上がってきた。

「きゃー」

別の歓声も上がる。

「ナナ」

そう言って私に向かって駆けてくる。

勇磨にやっと、伝えられた!