まだ息の荒い勇磨は、
この状況を把握できていない。
私の肩を引き寄せて、
ツバサくんの目の前で、
ぎゅっと自分の胸に抱いた。
そんな勇磨に女の子達が悲鳴をあげる。
その騒ぎにツバサくんがキョロキョロする。
悲鳴が罵声に変わり私に向けられた。
それでも、にやけが止まらない。
「勇磨、どうしたの?痛い。離してよ」
私の問いにちょっと睨んで答える。
「やだ。離さない」
また女子達が悲鳴をあげる。
ヤバイ、もっと誤解して!
「ナナが見えなくなったから、
クラスの奴に聞いた。
北高の男と出て行ったって言うからさ。
ツバサだってすぐに思って連れ戻しに来た」
クラスの奴って南さんだよね、きっと。
あの情報屋。
ナイス、南!
「でもよくここが分かったね。」
私も意地になって聞いた。
案の定。
「なんか詳しくルート教えてくれた」
南さんは何をしたいの?
「ツバサ、諦めろ。ナナはダメ。
俺はナナを誰にも渡さないって決めたんだ。
お前と争いたくない」
女の子達がまた騒ぐ。
うるさいな。
勇磨の声がよく聞こえないじゃん!
「うるさい、どっか行って」
私の声に女の子達がひるむ。
勇磨が「怖ぇー」と呟いた。
ふんっ。
「あのね、工藤、誤解だよ」
ツバサくんが必死に否定してくれた。
(もう少し遊びたかったけど)
「違うんだ。練習してたんだ。
カスミちゃんとケンカしちゃってさ。
好きだって言えないのが原因だからさ、
なぁなに練習台になって貰ってたの。」
なんで、ナナで練習なんだよ。
他でやれよと納得しない勇磨。
「おれも工藤みたいに、
ストレートに気持ちを言えたらな。」
そう言って勇磨を羨む。
確かに勇磨は、
気持ちをストレートに伝えてくれるけど。
でも、見てよ、あの女子達!
朝から女子に囲まれて、
私なんて近付けなかったんだから!
急に沸々とヤキモチが溢れ出る。
私は勇磨の腕を振りほどいた。
「勇磨、もう分かったでしょ。
勇磨はあの子達と写真でしょ。
私とは撮らないのに」
最後はちょっとむくれた。
撮るって約束したのに。
「あの子達連れて教室に戻れば?」
私って小さい。
ヤキモチに支配されてかわいくない。
「は?」
そう言って勇磨も怒る。
「ほら、練習でしょ。
ツバサくん、私の事、好き?」
勇磨を無視して練習を始める。
ヤキモチが体を支配して止まらない。
でも今日の勇磨は、
私のケンカを買わずに受け止めてくれた。
私とツバサくんの間に入り、
私を引き寄せ目を覗き込む。
「ダメだよ。練習でもだめ。
ナナに好きって言うのは俺だけだし、
ナナに好きか?って聞かれるのも俺だけ。」
至近距離で、そんな事を言われて、
もう、ドキドキを通り越して爆発だ!
横でツバサくんが赤くなって見てる。
それでも勇磨は止まらない。
「なんでそんなに怒ってるの?
あーあれか、
俺が朝から女の子達に囲まれてるからか。
ナナを放っておいたからか。
だったら言えば良かったじゃん。
勇磨、寂しかったって。
そしたら俺、ナナのそばにずっといたよ」
ばっバカ!
そんな事恥ずかしすぎる。
でも勇磨の目は真剣だ。
でも、一緒にいたい。
「勇磨、さ、寂しかった」
その言葉に、
勇磨はよしよしと納得して、
頭を撫でてくれたけど、
ファンの皆様は大絶叫!
「キモ」
「ウザ」
「ブス」
なんなの、勇磨のファン!
「ウザイのはそっちでしょ。消えて!」
思わず怒鳴るとまた騒ぐ。
「何あの暴言女」
「ゴリラみたい」
「ブスゴリラ」
爆笑する勇磨め、許さん!