勇磨を連れて教室から逃げようと考えた時だ

「なぁな」

突然、声をかけられて振り返ると、
ツバサくんだった。

「来てくれたんだ!」

また背が伸びたかな。
相変わらず真っ黒に日焼けしてる。

「なぁな、やっぱり浴衣似合うね。」

そうだった。
去年の夏祭り、
ツバサくんと行ったもんなぁ。

懐かしい。

「今日、カスミちゃんは?」

ちょっと落ち込んだ顔をする。

「またケンカしちゃって。
なぁなは、工藤、どうした?」

目線で勇磨を指す。

「すごいなぁ、さすがアイドル!
モテモテだな。
そっか、それでなぁなの機嫌が悪いんだな。
じゃあさ、気晴らしに回らない?」

うん。

そうだね。

勇磨なんて放っておこう。

こっちに全く気が付かず、
女子に囲まれちゃってデレデレして。

バカ勇磨。

「ツバサくん、どこ行きたい?」

そう聞くとにっこり笑って即答した。

「2-3」

ああ、ドーナツね。

デコドーナツ。

中に入り注文するツバサくんは
目がキラキラして超かわいかった。

ほっこりする。
さっきまでのイライラがすーっと消える。

「すごいよ、なぁな。このドーナツ!
チョコでしょ!
あと、クリームとかナッツとか、
あー、イチゴとか沢山乗ってる!」

大興奮でほおばる。

ヤバっ!

なんなの、このかわいい感じ!
罪だなぁ。

なんだろ、あぁ、かわいい!

もっと食べさせてあげたい!

「あとね、プリンのお店とクレープもあるよ」

手を引いて連れて行こうとしてハッとする。

「工藤以外は触っちゃいけないんだったよね」

ニコニコ笑うツバサくんはかわいい。

勇磨との約束だもんな。
本人は今、女の子に囲まれてるけど。

手招きして次の教室に入った。

「おいしい?ねぇ、もっと食べたい?
お茶飲む?」

口をもぐもぐさせて、
ツバサくんがにっこりする。

「なぁなは本当、俺の母親みたいだな。」

母親って!

勇磨も言ってたな、ママって。

でも勇磨のは下心ありありか。

「ツバサくん、
カスミちゃんとなんでケンカしちゃったの?」

お腹いっぱいになって、
落ち着いたところで聞いてみた。

ちょっと照れた顔をする。

「俺さ、あんまり好きって言えないんだ。
恥ずかしくて言葉にできなくて。
カスミちゃんは言ってくれるんだけど、
好き?って聞かれると言えなくなる。」

あー分かる。
ツバサくんらしい。

でもそれじゃあ伝わらないよ。

好きって本当に大切な言葉だから。

勇磨が私を好きだって信じるって、
言ってくれるだけで世界が変わって、
自分の存在価値を感じた。

誰かに大切に思われてるって、
こんなに素敵なことなんだなって。

だから、私も勇磨に好きって伝えたい。

大事だって伝えたいんだよ。

言えるってそれだけで、
自分も幸せになれるんだよ。

ツバサくんにも知って欲しい。