本当に良かった。

「バカ勇磨。いじわる」

私の頭をくしゃくしゃに撫でて、
ぎゅっと抱きしめた。

「でもナナは、
俺にいじめられたいんだよな」

そう言って空を仰ぐ。
下から見上げる勇磨はやっぱりイケメンだ。

「なんだよ、ナナ。
俺の事が大好きって顔してる。」

そうやってまた茶化す。

でも悔しいけどその通りだ。

「好き。大好き。」

途端に真っ赤になってまた空を仰ぐ勇磨。
思わず笑っちゃった。

かわいい。

「なんで笑うんだよ」

そう言ってスネる所もかわいい。

「ナナ、好きだよ。すごく。
こんな風に思ったの初めてだ。」

そう言って私を捕まえる手に力を込める。

「あーチュウしたい!
ダメだよね、学校だし。」

座り込んで頭を抱える。

なんだ、それ。

その隙に壁ドンから逃れ、
教室へと歩き出した。

「バーカだめだよ。早く教室に戻ろ」

本当、バカなんだから。

先を歩く私の肩をぐいっと引き寄せて、
そのままキスをした。

「やっぱ、我慢できない」

そう言ってまたキスをする。

勇磨、ずるい。

私またドキドキが止まらなくなる。

なんか急にムカムカしてきた。

やっぱり納得いかない。

「なんだよ。かわいくない顔してんじゃん」

またニヤニヤ笑う。

その余裕な態度だよ!
ムカツクのは!

「なんかやだ。私ばっかり翻弄されて。
私ばっかり勇磨が好きで。
勇磨の行動1つで、
天国にも地獄にもなるのに。
勇磨はケラケラ笑って楽しそうで。
私、朝から、ううん、
気付いたら勇磨の事ばっかり考えてる。
でも、勇磨は私に意地悪できる余裕あって。
なんかムカムカする。嫌いになりたい」

とうとう両手で自分の顔を覆い隠しながら、
笑いが止まらない勇磨。

もうやだ。

大嫌い!

ストレッチを始める私に、
慌てて向き合い両手を取る。

うつむく私を覗き込んで、
まだ笑いながら勇磨は言った。

「水族館、プラネタリウム、夜景、海、
コンサート、映画、山、ひまわり畑…。」

トモに連れて行ってもらったところを、
並べ始めた勇磨。

え、なんで知ってるの。

そんなに全部。

あ、あの情報屋か。

「俺が余裕あるって?
そんなもんあるか、バカナナ!
俺、ナナの何倍もイライラして、
ムカムカしてた。
ナナの事ばかり考えて、
シャットアウトしても、
またナナが流れこんできて苦しくて、
嫌いになりたかった!
だけど、嫌いになんてなれなかった。
だからすごく苦しくてツラくて、
ナナに当たり散らして泣かして。
アイツに言われてまたイライラして、
の地獄。」

両手を引き寄せられる。

私はバランスを崩して、
座り込んでる勇磨に
覆いかぶさるような形で止まった。

「俺の方が余裕ないよ。
俺の方がナナが好きで好きで
好き過ぎておかしくなりそうだ」

優しく勇磨の、背中や髪をなでる。
勇磨は私の腰に腕を回す。

かわいい。

愛おしくて小さな子にするみたいに、
胸に勇磨を抱いてなでる。

いつも勇磨がしてくれてたみたいに。

勇磨の髪に顔を埋めてみる。

シャンプーのいい香り。

男の子もいい匂いするんだ、
と単純に驚いたりもする。

しばらくそうしていたが、
予鈴が聞こえて手を離した。

「まだこうしてたい。」

「だーめ、もう行くよ」

「やだ、ママ抱っこして」

ふざけてんな。

「だめ、離して」

「ヤダヤダ」

もう、バカ!

頭突きして離した。

「イッテェな、この乱暴女!ほら」

そう言って手を出す。
その手を繋いで歩き出した。

「こうして行こうぜ。
モノ好きがナナに手を出さないようにな」

なんだ、それ。

「ねぇ、私の心臓の音、聞こえた?
勇磨にしてもらったようにね、
お返ししたんだけど、落ち着かない?」

横向いて真っ赤になる勇磨。

「ナナ…心臓の音の前に俺、男なんですけど。
別の事が気になって余計に落ち着かない。」

うわっ

そこで気がつく!

変態勇磨!

「うるせっ。
でもまたぎゅっとしてね、ナナママ」

私も赤くなり2人で真っ赤になって、
教室に戻った。