やだ、来ないで。

今、何か言われたくない。

言い訳も聞きたくない。

この場から逃げ出したい。

早く逃げないと。

そう思う間に勇磨に捕まった。
そのまま壁に押し付けられた。

「なんで、ストレッチしてるの?
また俺から逃げようとしてるのか。
ナナ、すごい顔してんな。
もしかして俺が南さんと2人で話してたから?」

そう言って笑う。

「変なストレッチのおかげで、
逃げ出すナナを捕まえられるな。
これだけはアイツにお礼言わないとな。」

ケラケラ笑う。

なんで笑えるの?

「変じゃない」

更に笑う。

どうして笑うの?

南さんと何、してたの?

2人で、何、話していたの?

「ねぇ、ナナ。
この状態、壁ドンって言うんだってな。
ちょっと古いか」

ちゃかしてこの状況を楽しんでる。

その態度にイライラする。

なんで、笑えるの?

こっちは本気なのに!

もう、勇磨なんて、嫌い!

腕に力を入れぎゅっと手のひらを握る。

「おっと、同じ手には乗らないよ。
また俺にみぞおちパンチ食らわそうとしただろ。」

そう言って私の両手を押さえつける。
これでもう動けない。

「なんで、怒ってるの?言って、ナナ。
たまには俺も、聞きたい」

甘い瞳で私を見つめる。

勇磨のそういう顔、何回見たかな。

壁ドンからの至近距離。
両手を取られて動けない状況が、
余計に緊張させる。

ドキドキする。

ドキドキしながら嫉妬と
不安にまみれたドロドロを勇磨にぶつけた。

「南さんと2人で何してたの?
今、南さんを抱きしめてたよね?
ぎゅってしてたよね?」

何故かニヤける勇磨。

「さぁ、どうかな。だとしたら、何なの?」

どこか茶化して真面目に答えてくれない。

やっぱり、南さんとって事?

不安が体に充満し身動きできない。

「なんで、嫌だ!
他の人に触ったり抱きしめたりしないで。
南さんと2人で話したりしないで。
私以外に触らせないで」

ニヤけが崩れてひどい顔になる勇磨。

「どうしようかな。俺、モテるし。
ナナだけのものでいられるかな。
南さんに好きって言われちゃった。」

ひどい。

バカ勇磨。

悔しいけど涙腺崩壊した。

泣いても仕方ないのに、逆効果なのに、
でも止まらない。

勇磨だけは絶対に嫌。

誰にも渡したくない。

必死にすがりついて嫌だって訴える。

そんな自分が情けなくて恥ずかしくて、
でも、どうしても嫌だ!

あわてて勇磨が私を抱きしめた。

「ごめん。意地悪が過ぎたな。
ナナがヤキモチ妬いてくれて、
気持ち良すぎた。
つい、意地悪したくなって泣かしちゃったな。
またアイツに怒鳴られるな。」

なんだよぉ。

意地悪か。

なんだ。

そっか、なら良かった。

本当に良かった。

「南さんには告られたけど断った。
ナナが好きだって言った。
抱きつかれたんだけど、
ナナ以外とは、
こういう事しないと言って離した。」

なんだ、そうなのか。

そうなんだ。

「しかし、ナナは、
全く俺を信用してないのな。
俺、どんだけ好きだって言ったら、
分かってもらえるのかなぁ。」

ちょっと切なそうに笑う勇磨。

だって。

好きだから不安なんだもん。

だから、いじわるで、良かった。