勇磨を真っ直ぐに見つめた。

「トモはその目標を達成する為の、
パートナーなんだよ。
好きとか嫌いとかじゃなくて、
パートナーなの」

眉間にシワを寄せて左上を見る勇磨。

「パートナー?なんだ、それ。解消しろ」

は?何言ってんの!

そんなの無理だよ。

私にとってその目標は大事なんだよ。

トモが一緒じゃないと叶えられない。

「アイツはナナをただのパートナーとは、
思ってないんじゃないのか。」

いや、それはパートナーだと思う。

勇磨の言ってる意味のような事はない。

「トモは今は好きな女より、
私を優先するって。
それは好きな人がいるって事だよね。
だから、今は目標までのパートナーだよ」

それを聞いて益々、感じ悪くなる勇磨。

「やっぱり嫌だ。
何で好きな女より優先できるんだよ。
それは本気で好きじゃないんだ。
俺ならナナ以外に優先する事なんて、
1つもない。」

言い切られてドキッとした。

私以外、優先する事ない。

嬉しい。

私も勇磨が1番だ。

でも、トモと約束したんだ。

今は好きな男よりもトモを優先するって。

勇磨よりトモの言葉を聞くって。

でも本当にそうなんだろうか。

どちらかを選ばないといけないのかな。

分からない。

私の迷いが顔に出た。

「ナナも今はアイツを優先するの。
だからアイツの言葉しか聞かないの?」

黙って勇磨を見た。
勇磨の瞳が願うように私を見つめる。

どうしょう。

どうしたらいいんだろう。

言い方を間違えたらまた怒らせる。

また私を見ない勇磨に戻っちゃう。

怖くて言葉が出ない。

勇磨を失いたくない。

私はまた何も言えなくなり、
黙り込んだ。

「黙ってるって事はそういう事だよね。
結局、最後はアイツなんだな」

大きなため息をついて勇磨は諦めた。

私の肩をそっと自分から引き離した。

「もう下に着くな。降りようぜ」

黙って立ち上がり、開くドアから降りた。

私も後から続く。

険悪な雰囲気が漂ってる。

いや、違う。

勇磨は怒ってない。

泣いてるみたいに冷たく寂しい背中。

なんでこうなっちゃうんだろう。

さっきまで本当に、
夢みたいに幸せだったのに。

私は何度、間違えちゃうのかな。

勇磨が好きなのに。

結局、好きって事も伝えられない。

勇磨の後ろ姿を必死で追う。

何も言わずにどんどん歩いて行く勇磨。

何がいけなかったんだろう。

トモを、目標を優先するって事?

でも、簡単にみんなの目標を壊す事は出来ない。

私にとっても大切な目標だから。

でも勇磨の冷たい後ろ姿を見てると、
ダンスなんてもうできなくていいから、
勇磨といたい!って叫びたくなる。

目標も夢もステージもどうでもいい。

勇磨の腕に戻りたい。

優しく笑って欲しい。

でも、別の私もいる。

踊りたい、みんなと。

ステージを成功させたい。

やっと見つけた夢と目標を手放したくない。

だけど。

どっちか選ばなきゃいけないなら、
それは決まってる。

勇磨を優先すると言おうと決めた。

例え勇磨が私を受け入れてくれなくても、
私の好きは変わらない。

もう諦めたくない。

勇磨の事だけは嫌。

勇磨だけは絶対に嫌!

好きだって、言いたい。

思いっきり走って勇磨に近付いた。

背中に手を伸ばしたその時、
急に勇磨が立ち止まった。

私は対応出来ずその背中に激突した。

「痛っ!何で止まるの?」

勇磨の背中が緊張してこわばった。

「何?」

勇磨の返事を聞く前にトモを見つけた。

「トモ!」

勇磨の後ろから顔を出した私に気がつくと、
トモはにっこりと笑って勇磨に片手をあげた。

「ちび、探したんだよ。ここにいたのか。
アイドルくん、ごめん、ちびを借りたいんだけど。」

その言葉に勇磨は私の肩を引き寄せ、
ぎゅっと力を入れた。

「嫌だ。ナナはお前には渡さない。」

トモは大きくため息をついた。

「なんだよ、ホント、ガキだな。
別に君からナナちゃんを、
奪い取ろうって訳じゃないし、
俺達の目標達成の為にはちびが必要なんだ。
お前の気持ちがどうとかって話じゃない。
ちびは所有物じゃないだろ。
彼女だって自分で選ぶ権利があるはずだよ。」

勇磨は腕の力を抜いて私を離した。

「ちび、おいで」

そう言われ私は迷った。

さっきまで勇磨を選ぶと決めてたのに。

私の迷いが勇磨に伝わる。

「行けよ」

勇磨がつぶやく。

冷たく響く。

その言葉に一歩、足が出た。