突然、扉が開いた。
スタッフのお姉さんの笑顔がのぞいた。

「すみません、大丈夫でしたか。
ご迷惑をおかけ致しました。」

下に着いたんだ。

早く降りなきゃ。

そう思って立ち上がろうとしたけど、
手足と腰に力が入らなくて動けなかった。

どうしょう。

降りなきゃ。

どんどん進むゴンドラに、
お姉さんが困った顔をする。

「手、貸しましょうか」

そう言ってくれたけど、
震えて手も差し出せない。

降りなきゃ。

降りたい。

「すみません、もう1周します」

その声に顔をあげると勇磨だった。
青い顔で息を切らす勇磨を見上げた。

「どうして」

それしか出てこない。
お姉さんが扉を閉めて鍵をかける。

え、ちょっと待って。

もう降りたいんだけど。

やだ、もう。

これ以上は無理。

でも立ち上がれない。

勇磨は私を抱き抱え、椅子に座らせた。

「勇磨、待って。もう嫌なんだけど。
怖い、降りる」

必死に勇磨に懇願する。

「いや、もう無理だろ。
逆回転はできないからね。
もう1周するしかない」

ちょっとあきれ顔で私を見る。

「ナナ!
なんで電源切るんだよ!
助けてって言われて、
電話が繋がらない俺の焦り分かる?
生きた心地しなかった。
ナナに何かあったらって。
俺、色々と後悔した。
ナナにひどい態度を取ったし。
意地悪も言った。謝りたかった」

ごめん。

心配させた事は謝る。

黙る私を勇磨は抱き寄せた。

勇磨の腕の中。

「冷たいな、震えてる」

ぎゅっと抱きしめられて落ち着く。
勇磨の心臓の音が聞こえる。

「俺、ツバサに連絡したんだよ。
そしたら多分ここだって言ってた。
なぁなを信じてやってくれってさ。
ツバサはナナの事がよく分かるんだな」

ツバサくん、ありがとう。

「なんかムカツクんだよ。
俺だけひどい奴みたいで。
ツバサも今井チカもみんな、
ナナを信じるって断言しちゃって。
俺だけヤキモチ妬いて小さい男」

怒って拗ねる横顔に思わず吹き出した。

歯がカチカチする程震えているのを、
必死にごまかし軽口をたたく。

「本当、小さい男」

そんな私を引き離し、
立ち上がろうとする勇磨。

「ナナ、ここがどこか分かってる?
ここではナナは俺に逆らえない」

体が離れた途端に不安が襲ってきた。

やだ、怖い。

何も考える間もなく、
勇磨の手を掴んで引き戻した。

そのまま自分から勇磨にしがみついた。

もうなんでもいいや。

はなれたくない!

「お願い。ここにいて」

勇磨の背中に腕を回して掴んだ。

勇磨も私をぎゅっとしてくれた。

「ずっと観覧車に乗ってたい」

それはどういう意味なんだろう。

なんで来てくれたの?

どうして抱きしめてくれるの?

やっぱり、南さんと付き合ってはいないの?

ツバサくんの言う通り、
勇磨はまだ私を好きでいてくれるの?

分からない。

気が動転してる私を心配して、
優しくしてくれてるだけかもしれない。

だけど、今、目の前にいる勇磨は、
ここ最近の無関心で無表情な勇磨じゃない。

怒ったりあきれたり笑ったり、
そして優しい。

嬉しい。

透明人間じゃない私。

だから、聞きたい。

私の事、本当はどう思ってるの?

南さんとキスしたの?