母の愛?

まぁ分からないでもない。

そう感じてた時もある。

でも言い切れない気持ちもあったよ。

私はドキドキして、チクチクして、
ツラくて苦しいのは嫌なんだよ!

「なぁなはさ、
ツライ時に俺に会いたいと思った?
俺の前で泣きたいって思った?
ツライ時は工藤に会いたかったんじゃないの?
工藤のツライ時だって、
側にいて励ましたいって思ったから、
あの時、震えても病院に走ったんでしょう」

それは…

確かに勇磨の前だけでは素直に泣けた。

勇磨が側にいてくれると、
涙が乾いた時に元気になれた。

勇磨がケガしたって聞いた時も、
1人にしたくなかった。

側で一緒に泣くしかできなくても。

勇磨といるとドキドキして不安になって怖い。

今もすれ違うだけで、
遠くに見えるだけで、
名前を耳にするだけで、
怖い。

自分が自分じゃなくなるみたいだ。

「俺だってカスミちゃんといると、
ドキドキして不安になるよ。
他の奴と話したり、
一緒にいるのを見かけたら
イライラするし、
物に当たりたくなる。
工藤がなぁなと会うなって、
触るなって言ったの、今なら分かる」

意外。

「ツバサくんって、
感情の振り幅が少ないと思ってた。」

「俺だって、なぁなの事、そう思ってたよ。
だから、俺たちはやっぱり友達だったんだよ。
本当に好きになるとさ、
やっぱり自分のペースじゃいられなくて、
戸惑って怖くなって、
自分から手放したくなったり、
でも離したくなくなるもんじゃないかな」

怒って背を向ける勇磨を手放したい。

見えない所に行きたい。

でもまた一緒に笑いたい。

一緒にいたい。

でも違うよ、好きなんかじゃない。

南さんがチラつく。

好きな訳ない。

勇磨は私の話なんて聞いてくれないんだから。

「じゃあさ、
今から俺と観覧車乗りに行こうか」

突然の誘いに驚いた。

でも、観覧車は、乗りたくない。

観覧車だけは。

ツバサくんはニッコリと笑う。

「工藤としてたみたいにさ、
ぎゅーっとしながら観覧車に乗ろうよ」

ちょっと驚いた。

「見てたの?」

照れた顔して笑うツバサくん。

「うん、俺、
あの時ものすごく緊張しててさ、
助けを求めて振り返ったら、
2人でイチャイチャしてるから、
余計に緊張して恨んだ。」

イチャイチャなんて。

だって私、高いところ苦手で。

「なぁな、俺とは何回も乗ったけど、
高い所苦手なんて、1回も言わなかったよね。
震えもしなかったし。
なぁなが自分を安心して出せるのは、
工藤だけなんじゃないの?
怖くてツラくて不安になっても、
それ以上に楽しくて嬉しくてさ。
大事な思い出になるんじゃない?
俺と乗った何回かよりも、
工藤との1回なんじゃないの?」

ツバサくんと何回も乗った観覧車。

なのに、あの日、
勇磨と乗ったら全く違ってた。

怖くて怖くて本当に怖かったのに、
一緒に見た夕陽が今でも心に残ってる。

勇磨の優しい声も温かい手も鼓動も。

忘れない。

だから、南さんと乗って欲しくない。

南さんにして欲しくない。

でも、南さんは関係ない。

他の誰にもして欲しくないんだ。

そっか。

私がどうしたいか、だ。

勇磨以外とは観覧車に乗りたくない。

私にとっては大事な場所だ。

私、自分の気持ちを何にも伝えてなかった。

ダンスの事も仲間の事も、
勇磨への気持ちも。

他の人とは違う。

勇磨は私にとって大事な存在だ。

どうしても伝えたい。

何してたんだ、私。

いじけてスネて避けてる場合じゃない。

「じゃあ、なぁな、健闘祈るね。」

ツバサくんはニッコリと笑った。

「ありがとう。でもツバサくんに、
恋愛語られるなんてねー。
笑える!」

その言葉にちよっとむくれる。

「いつまでも弟キャラじゃないからね。
工藤によろしくね。
また4人で遊ぼうって伝えといて。」

うん、そうだね。

それ、いい!

私は店を出てまたストレッチをした。

よし、待ってろ、勇磨!

無視してもウザがってもぶつかって、
その壁をぶち壊すから。