ツバサくんは遠目でも分かる。

門にもたれかかり、こっちに気付く。

軽く右手を上げて

「おーい、なぁな!」

と恥ずかしいくらい大きな声で呼ぶ。

かわいい!

「久しぶり!ツバサくん、また背が伸びたね」

もう180センチはあるんじゃないかな。

「なぁなは痩せたね。体調悪いとか?」

お門違いな心配もツバサくんらしい。

会ってみて思う。

やっぱりツバサくんだ!

ツバサくんに会えただけで、こんなにも、
心が穏やかになる。

これが、好きって事だよ。

駅前のカフェに入った。

ツバサくんはウキウキでメニューを開き、
イチゴのパンケーキを選んだ。

好きね、全く。

「ねぇなぁな、ダンスしてるの?」

唐突に聞かれた。

「うん。そうだよ」

でも、何で知ってるんだ?

「いや、この前、クラスの奴に、
なぁなの事を聞かれたんだよ。
同じ中学だったんだろって。
なぁなの事、すごく褒めてた。
ダンスがものすごく上手いって。」

そっか、北高にもチームの子いたな。

「笑っちゃうよね、私がダンスなんて」

でもツバサくんは首を振った。

「ううん、あるかなって思ったよ。
なぁな、運動はイマイチだったけど、
柔軟は得意だったよね。
ダンスの授業も上手だったし。」

え、あ、そうなんだ。

なんか、ちょっと嬉しい。

「俺も見たいな、なぁなのダンス。
今度、見に行こうかな」

うん、いつか来て。

ツバサくんに知られたくなくて、
ダンスをやめたのに。

今は、
私の好きなものを見てもらいたいって思う。

不思議だなぁ。

「ところで、今日、工藤は?
一緒に来るかと思ってた」

勇磨の話題で気持ちが下がる。

「何?ケンカしたの?」

クリームをイチゴに付けて、
口に運ぶツバサくん。

なんだろう、癒される。

こんな気持ちになるの久しぶりだ!

「早く仲直りしなよ」

ツバサくんの言葉で、途端に胸が変に痛む。

「ううん、勇磨は好きな人ができて、
そっちに夢中なんだよ。」

フォークとナイフを置いて私を見ながら、

「それはない」

断言するから、ちょっと笑った。

なんで、ツバサくんが断言するのか。

「本当なんだよ。
勇磨は私のダンスの仲間も、
私の事も信用してくれない。
今はダンスの事は言えなくて、
でも信じて欲しいのに。
チカは信じてくれたのに、
勇磨には届かない。
友達だって思ってたのに。
勝手に怒って私を無視するんだ。
だからもう、勇磨とは何の関係も…」

―ない―

何故かそれは言葉にできなかった。

ツバサくんは優しい顔で聞いていた。

また泣きそうになる。

でも泣かない。

「男と女は違うよ、なぁな。
工藤はさ、なぁなの事、
友達なんて思ってないよ。
ヤキモチも妬くし、ひねくれる。
信じたいけど信じられなくて。
でも、そんな自分がイヤでさ。
工藤も苦しんでると思う。」

そんな事、ないよ。

それは違うと思う。

もう勇磨は南さんが好きなんだから。

「だから、それはない。
アイツは、
コロコロ気持ちを変える奴じゃないの。
なぁなも分かってるでしょ。
ほら、なんだっけ?病気。
ああ、中2病。
なぁなが告白しちゃえば、
すぐに元通りになるよ」

告白って。

私が勇磨を好きって事?

チカも言ってた。

「じゃあ、なぁなは何で、
こんなに悲しい顔してるの?
工藤が友達なら、彼女できたっていいじゃん。
でも2人を見るの、ツライんじゃない?」

それは、そうだけど。

でも、私、好きっていうのは、
ツバサくんを好きだった時みたいに、
守ってあげたくて笑顔が見たくて、
それが出来たら、
ものすごく幸せで満たされる、
そういうものだと思うから。

不安になったり、怖くなったりは違う。

「うん、それも好き、だよね。
俺、なぁなが俺の事好きって言ってくれて、
すごく嬉しかったよ。
でも、なぁなの好きは、
俺と同等じゃないよね。
与えてくれるって言うか。
母の愛みたいな。」

ツバサくんは、
そう言ってケラケラ笑った。