教室のドアを開ると、
窓辺に立っていた勇磨が振り返った。

ドキっとするのを必死で隠した。

「ナナ、今まで屋上にいたの?アイツと?」

その声はもう怒ってなかった。

だけどすごく悲しい声。

「2人で何してたの。
窓、開かないように細工しただろ」

今、何を言ったら正解なんだろう。

何て言ったら勇磨と友達に戻れるんだろう。

だけど、口から出たのは、
勇磨を傷つける言葉だった。

「勇磨には関係ない。
勇磨は南さんの事だけ考えて。
私はトモの言葉だけ聞く!」

だって勇磨は南さんが好きなんでしょ。

女嫌いの勇磨が南さんを拒んでない。

それはOKしたって事だよね。

好きな子としか、
2人で出かけないって言ってたもんね。

観覧車で夕陽を見るんだよね。

それは、南さんが、好きって事だ。

私の事は信じないのに!

勇磨の瞳に怒りが湧いた。

また怒らせた。

「ナナ、本気で関係ないって言ってるの?」

そう言って私に近付く。

後ずさりして壁にぶつかった。

逃げ場がない。

目の前で怒りをぶつける勇磨。

勇磨を交わして逃げようとする私の顔の横に、
両手を付いて逃げ場をなくす。

まともに目が合って、
もう逃げられないと悟った。

「俺はナナが好きなんだ。
なんで分かってくれないの。
なんで関係ないなんて言えるの?」

じゃあ、なんで信じてくれないの?

なんで私を透明人間にするの?

なんで、

なんで、南さんと、観覧車。

黙ってる私に勇磨はイライラを隠せない。

「ナナは俺が嫌い?
アイツが、トモって奴が好きなの?
アイツの言葉しか聞かないんだもんな。
分かったよ。
ナナがそう言うなら俺は南さんと」

南さんと何?

やっぱり南さんが好きなんだよね。

もういいよ、分かった。

「だったら私に構わないで。
南さんと付き合えばいい。」

そう言って勇磨のみぞおちにパンチをした。

不意を突かれ、
しゃがみこむ勇磨の横を通り過ぎ、
ポケットからヘアピンを出して投げつけた。

嫌い、大っ嫌い。

教室出たところでトモが待っていた。

「壁ドンをみぞおちパンチで逃れる女、
初めて見た。」

そう言って笑ってから真剣な表情になる。

「ねぇちび。
今は他の事を考えるなって言ったけど、
自分の気持ちに正直にならないと、
表現力は伸びない。
まずは認めるところから始めろ」

トモの言う事の真意が分からず、
ただ追いかけて歩いた。

「ねぇ、どういう意味?」

そう聞く私に

「自分で考えろ」

それだけしか言わなかった。

でもたぶん、
トモの言う事に何か意味があるんだと思う。

実際に私のソロパートが上手くいってない。

何か足りないと私もみんなも思ってた。

気持ちが昇天しない。

トモとのペアから始まるキレキレダンスも、
女子チームのアイドルダンスも完成し、
後は微調整だけなのに、
ソロだけが上手くいかない。

あと少しでシークレットステージなのに。

勇磨に翻弄されてばかりの私。

一体どうしちゃったんだろう。

頭から勇磨が離れない。

南さんと、の先が気になる。

でも、もう、本当に終わりにしよう。

勇磨の事はもう、考えない!