最近、ことあるごとにため息をついてしまう癖がついた。
そのせいでいつも楽しくなさそうだとか、絡みにくいだとか思われているのかもしれない、と思うと少し嫌な気持ちになる。
でもこれには理由があるのだ。
学校で、好きな人を見ているとついついため息をついてしまうから。
なので、学校内でしか基本的にため息はしない。
だけどもため息をつき過ぎると幸せが逃げていくから、それは嫌なのだ。
考えごとをしていたら、またなんだか嫌になってきて、ため息をつく。
「おーいチカちゃん、ため息はもうしないって意気込んでた今朝のキミはどこへ行ったんだい?」
ふと、上から声がした。肘をついていた私はずっと下を向いていたので、近付かれたことに気付かずにびっくりしてしまう。
「あ、ナッちゃん……やめてよ、驚かさないでよ……!」
「驚かしてないよ〜、あたしはただ普通に声かけただけ!勝手に驚かれてこっちもびっくりだぞ!」
ナッちゃんは私の親友なのだけれど、突拍子のないことを言い出す子だというか、神出鬼没だとか。とにかくマイペースな子なのである。
「ため息ついたら幸せが逃げてく……だっけ?そんなこと気にしてるんだったらため息つくなよ、もう!」
「う……でももうほとんど逃げちゃったよ、多分。全然幸せじゃないってこと……」
「……まぁまぁ、大丈夫だって!このナツとお友達なんだから、アンタは幸せ者だよ!」
そうかなぁ、と消え入りそうな声を出して、私は少し俯く。そんなことをしている間に休み時間が終わって、チャイムが鳴る。やべ、と言い残してナッちゃんは自分の席へ駆けてった。
はぁ、ため息つきたくないな。幸せが逃げてったら、あの子にも嫌われちゃうかもしれない……。
授業にも集中できなくて、ちらっと、ちょっとだけ、私は好きな人のことを見た。
彼は高橋ハルくんといって、クラスのみんなの人気者。なんでも出来て、万人受けするような顔。
もちろん女の子にもモテモテで、何人かに告白されたことがあるらしい。でも好きな人がいるから、という理由で全員断ったらしい。
そんな彼だから、好きなんだと誰かに言ったら、憧れで好きになったのかと言われそう。私みたいな地味なクラスメイトは、きっとつり合わないから。
授業の問題を真面目に解く彼の横顔はとっても綺麗で、ドキドキしてしまうのだった。

「なぁ、橘」
放課後、帰ろうして席を立つと、何故か高橋くんからその進路を塞がれる。いつもより顔が近くて、物凄く胸がうるさい。
こういう時期待しちゃうのって、悪いところかもしれないな。
「ちょっとだけいいかな、すぐ終わるから!屋上まで来てくれないか?」
「え、あ、うん……!?大丈夫だよ、行ける」
ありがとな、と笑った彼は、同時に出ていくと噂をされるかもしれないということで先に走って出ていってしまう。
ナッちゃんはその様子を見て、それじゃあ私は部活へ行くよと去っていってしまう。
教室に取り残された私は、心を落ち着かせながらゆっくり、のんびりと屋上へと向かうのだった。
ペタンペタンと上靴の音がなる。