「ごめん。僕、ちょっとトイレで体を拭いてくる。」
「わかったよ。」
男の子たちが退散したあと、
顔を手で隠しながら委員長はそう私に声をかけた。
今の委員長は目元ぐらいまでは髪で見えないけど、すごく印象が違う。
「誰かに、似てるんだよね‥‥‥。」
誰だっけ‥‥‥。
手で覆われたところが分かれば、きっとわかると思うんだけど‥‥‥。
あれは誰だっけ‥‥‥?
「う〜ん。」
「お待たせ。」
「あ、早かったね。」
「ああ。タオルで体を拭いて、上着を片付けただけで。で、その‥‥‥。」
「その‥‥‥?」
「小田巻の話が聞きたいんだったけ。」
「うん。」
「すみれちゃんにはさ、『覚悟』がある?」
「『覚悟』?」
「うん。真実を知る『覚悟』。」
「それって、小田巻くんに関することだったりするの?」
「‥‥‥うん。多分、すみれちゃんにとっては辛い事実だと思う。でも君は知らなきゃいけない。」
「‥‥‥。」
『覚悟』‥‥‥。
あるの、かな?私に。
「‥‥‥これがホントに『覚悟』かなんて分かんない。聞きたくなんかない。それが私にとって辛いことなら。」
「なら。」
「でも、聞かなきゃ。」
あの人のこと、知らなきゃいけない。
彼が私に何をしたかったのか。
それを知るためには。
それにもしかしたら行方不明先も分かるかも。
彼に聞きたい。
前に聞けなかったから。
なんでこんなことをするのか。
なんで私に『幸せを願う』と言ったのか。
なんでこんなにも矛盾したことをしているのか。
「お願い。教えて。」
「小田巻のため、か‥‥‥?」
「それは‥‥‥。」
「何で、何でいつもこうなる‥‥‥。」
「えっ?」
髪の毛から拭ききれていない水滴が委員長の目尻に落ちた。
それはまるで泣いているようで。
「何でそんなに小田巻のこと‥‥‥!」
それに悔し、そう‥‥‥?
そんな委員長に思わず言った。
「‥‥‥私は、委員長が行方不明になったらめっちゃ探す。」
「っ!?」
「多分、小田巻くんよりも探す。だって委員長の方が好きだもん。」
「‥‥‥ははっ。」
「‥‥‥?どうしたの?委員長。」
いきなり笑い出した委員長に聞いた。
「ああ。いや‥‥‥。君はこの後もこんなことを言ってくれるんだろうなって。」
「何言ってるの?当たり前じゃん。」
「‥‥‥そっか。小田巻じゃなくて俺に、か。」
「どうしたの?ホントに。」
「何でもないよ。それよりも行こう?真実を知りに。」
「どっかに行くの?」
「ああ。そこが一番わかってくれるだろうから。」
そう言った彼の顔はちょうど逆光で見えなかった。