「小田巻くん、私と付き合っていただけませんか?」

「はぁ‥‥‥。」



そういうことか。

つまりは俺とすみれちゃんと仲良くしようとしている様子が気に食わないってことか。




「断る、と言ったらどうするんだ?」

「誘拐しちゃいます。多分。」

「こちらのメリットはなにかあるのか?」

「そうですね‥‥‥。付き合っている間、こちらからは、すみれさんに嫌がらせや犯罪行為をしません。」

「なるほど。」




付き合えば、すみれちゃんに危害を加えそうなのはいなくなる、な‥‥‥。


それに誘拐されずに済む。

こいつなら、すると言ったらしかねない。


まあ、悪くない取引だな‥‥‥。




「いいだろう。約束は守れよ。」

「‥‥‥そんなに簡単に言ってしまってもいいのですか?すみれさんともう付き合えなくなるのですよ?」

「別に一生のお別れ、ってわけじゃないし。」


別にいいよ。




俺は、決めたんだ。


あの子の笑顔を守るためなら、何でもするって。


そのために、嫌われたって、嫌がられたってもいい。


ただ、守りたいんだ。



たとえ、汚れてしまっても‥‥‥。




「交渉成立ですね。にしてもいいですね。別に好きじゃない女と付き合ってもいいぐらい愛されてるの。」

「宝物、だからな。」

「はあ、そうですか。『無自覚に愛されてる』。すみれさんのそういうところ。嫌いなんです。」

「‥‥‥。あっそ。」



特に興味もない。


秋月という人間に欠片も興味が沸かない。



別にすみれちゃんのことなんて俺だけが知っていればいい。





「では明日からよろしく。彼氏さん。」




その言葉に、『ああ、俺は誰かのものになったんだ』、という表面上の気付きしか得られなかった。




そんなときだった。







ガランッ



そんな音が鳴った方を見た。


まさか、とは思った。


まさかそんなことは起きないと。


でも、振り返るとジュースの缶を落とした彼女がいた。



「すみれちゃん!?」


本当に予想を超える子だ。


なんで来たんだろう?



そう不思議に思っていると、彼女と秋月が話し、いきなり逃げてしまった。それも走って。



まさか、秋月が盗撮犯であることがバレた‥‥‥?


分からない。


どこまで話を聞いていたのかも、俺のことを今、どう思っているのかも。



分からないがただ彼女が悲しげで、

でも汚れた自分には、すみれちゃんを慰める資格もなくただ呆然とするしかなかった。