「まっつー。先輩見なかったか?」
「月影先輩? 見てないよ」

 新條と小松くんが話している。律は聞き耳をたてた。

「どこ行ったんだろー。何か最近、先輩の様子がおかしいんだよなぁ」

 ――まずい。新條にも気付かれてたみたい。

「おかしいって、どんな風に?」
「なんつーか、俺が近寄るといなくなるっつーか……」
「えっ。それ、避けられてるんじゃ?」
「う、うるせーよ!」

 小松くんの発言に腹が立ったらしい新條は、どこかへ行ってしまった。

 律もコソコソ立ち去ろうとしたら。
 ガタンッ。
 床に置いてあった塵取りを蹴ってしまった。
 振り返る。案の定、小松くんがこちらを見ている。

 ――しまった。

 律は心の中で、ここに塵取り置いたの誰よぉ~、とつい人を責めてしまう。

「月影先輩。話があるんスけど、ちょっといいっスか」

 丸顔のぽっちゃり体型で、いつも優しそうな雰囲気の小松くんが珍しく口をへの字に曲げている。鼻息も荒い。

「……何かな小松くん?」
「僕、あっちゃん……あ、あっちゃんってのは新條のことですけど……とは中学時代からの付き合いで」

 話というから、律はてっきり新條を避けてたことについて何か言われるのかと思ったけれど……まさか昔話なのだろうか?