新條とまともに目を合わせられないし、こんな顔誰にも見せられないと思った。

「んん? 先輩、熱あります?」

 新條に顔を覗き込まれそうになって、心臓が飛び跳ねた。

 ――新條アサヒって……こんなにかっこいい奴だったっけ?

「ちょっと私……トイレ! 行ってくる!」

 律は、声のボリューム最大で叫び、トイレに駆け込んで、個室に籠った。

 ――はぁぁぁーっ。心臓がもたない。元から整った顔してるなとは思ってたよ。思ってたけどさ! あそこまでじゃなかったはずだよ? しかも、何かいい匂いするし。香水つけてんのかな?

 ――って、私さっきから新條のことしか考えてない。ダンスに集中しよう。集中ッ集中ッ!

 そう思った律は気合を入れるために、自分の頬を両手でバシバシ叩いた。
 

 体育祭まであと二日。
 律も深川さんと同じく、ウエーブは何回か練習すればどうにかなるという気持ちでいた。しかし。

「ああぁーっ。今のは惜しかったわよ!」

 全校練習になると何回やっても上手くいかない。綺麗なウエーブにならない。
 日傘を持ち、サングラスを掛け、アームカバーをした日焼け対策バッチリのはるな先生がとても悔しそうにしている。