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「律―? いつまで入ってるのー? 律!」
「ぷはっ」

 遥か彼方から母の声が聞こえた気がして、律は意識を取り戻した。

「はー、はー、はー」

 ――苦しかったーっ。もしかして、私お風呂で溺れかけてた?

 律は肩で息をしながら、浴槽で大きく波打つお湯を見つめる。
 そうしていると、顔面蒼白の母が、服のままお風呂に入ってきた。

「律っ! お風呂で寝ちゃだめよ! 溺れるわよ!」
「わかってるっ、でも考え事してたらつい……」

 ぶくぶくと沈んでいってしまった……。
 ほんの数時間前、新條がくれた言葉が、頭から離れてくれないのだ。

 ――あれは、私がずっと欲しかった言葉だった――

 律は自分に嫌いな部分があると、いつも心にストレスがかかっていた。
 新條がダメな自分を受け入れて肯定してくれて、少しだけ自分を好きになれたと思うし、もっと前向きに自分と向き合えるような気がする。