律は強がった。本当は、新條の言う通りだった。理想の自分になるために毎日毎日努力する日々で、しんどかった。

「先輩は気付いてないみたいですけど、本来の先輩にもいいところがたくさんあるんですよ」

 その瞬間。雲間から一筋の光が差し込んで、律と新條がいる場所が明るくなった。まるで律の心を照らすみたいに、初夏の太陽光が降り注ぐ。

「……そんなわけないよ、本来の私なんてダメダメだしっ」
「真面目で努力家で、素敵です」

 ――アイドルじゃなくなったこんな私を、褒めてくれてる……? 
 律は思わずドキッとしてしまう。

「あれ、新條アサヒじゃないっ?」「本物かなぁー?」「話しかけてみる?」

 通行人が新條に気付き始めた。
 はっ。面倒なことになる前にどこかへ移動しないと!
 そう律が考えていると、黒い高級感のある車が歩道に横づけしてきた。
 スーツ姿の中年男性が、新條に近寄る。

「こんなところにいたんですが、探しましたよ。電話しても出てくれないですし」
「わりぃわりぃ。で、何の用だよ? リハまでまだ時間あるじゃねーか」

 この会話からして、スーツ姿の男性は新條のマネージャーだろう。

「スタート時間が繰り上げになったんですよ! さ、急いで乗ってください」